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特別公開 金峯山寺仁王門 金剛力士立像 /奈良国立博物館

 巨像。
 ほんとうに、その名がふさわしいものと思われた……

 奈良国立博物館の「なら仏像館」で、吉野・金峯山寺の《金剛力士立像》(南北朝時代・延元3~4年〈1338~9〉  重文)を再見しての感想である。
 撮影可能とあって、スマホを向ける人が絶えずいた。この光景は今年の7月23日も、ちょうど2年前の7月23日も、まったく同じであった。

阿形像
吽形像

 高さ、じつに5メートル超。
 奈良博のホームページによると「彫刻部門の指定品の中では東大寺南大門像に次いで2番目に大きい」とのこと。
 天井ぎりぎり、つまりは、まるで測ったかのようにこの空間にぴったりとハマっているが……これまで680年ものあいだ、修験道の総本山・金峯山寺のさらに中枢・蔵王堂の北の入り口を左右で固めてきた仁王像である。
 2020年に修復を終えて、2021年2月23日から奈良博での特別公開がはじまった。本来の居所である仁王門(康正2年〈1456〉建立  国宝)の修復が完了する令和10年度までの、長い仮住まいとなる。

 特別公開の開始から5か月後、2021年の7月23日にわたしは奈良博を訪れ、これらの写真を撮ったのだった。
 さらに、仁王門に足場が組まれるぎりぎり直前のタイミングということも把握していたので、翌日は吉野に足を延ばし、金峯山寺仁王門にもご挨拶。

参道を往くと、ひときわ大きな門が現れる。本来ならば、左右のスペースに阿吽の仁王像が鎮座していて、この位置からでも見えたはずだ
門前の和菓子屋さんでベンチに腰かけ、お菓子をほおばりながら見上げた仁王門。これでも「写真では小さく見えてしまうな」という感じ。工事を控えて、通行禁止

 ——仁王像と仁王門を、併せて観る。
 じつは、それ以外にもうひとつ、生涯2度めの吉野へやってきた理由があった。
 映画『男はつらいよ 寅次郎物語』(第39作  昭和62年公開)のロケ地という目線で、かねてよりこの地を再訪してみたかったのである。
 そういう意味では、どっちがどっちかわからないが、ともかく「渡りに舟」であった。

 寅さんこと渥美清も、「かあさん」ことマドンナ役の秋吉久美子も、劇中でこの仁王門をくぐっている(予告編の2分あたりのカット)。
 ふたりのシーンを思い浮かべながら、わたしも門をくぐりたかった……

 仁王門の前・石段上でぶらつく寅さんに、「甘いものいる?」とかあさんが下から声を掛ける。かあさんは(わたしが休んだあの)和菓子屋で買い物を済ませ、急いで石段を駆け上がり、寅さんに合流。ふたりで身の上話に花を咲かせながら、阿吽の像の真ん中を通り、蔵王堂の方面へゆっくり歩いていく。法螺貝を吹く山伏の行列とすれ違い、ふたりは驚く……

金峯山寺蔵王堂(国宝)。ふたりの身の上話は、蔵王堂に着いても続く

 このシークエンスに、仁王像もばっちり映りこんでいる。というか、阿吽それぞれの単独のカットすら、数秒ずつあるのだ。セリフこそないものの、立派な出演者といってよいだろう。
 吉野では、他にもこの映画の「聖地」といえる場所をいくつかまわって、「ひょうたろう」の柿の葉寿司を忘れず買い求めて、大満足で旅を終えたのであった。

 ——仁王像は、まだしばらくは奈良博で、行き届いた温湿度管理のもと、雨風を受けることなく過ごすことになる。
 旅先での転地療養ともいえるが、やっぱり “住み慣れたわが家” がいちばんのはず。
 吉野の地に戻り、仁王門の定位置に据えられたそのお姿を、改めて拝見しに参りたいものだ。寅さんのように気軽に、風のようにふらりと。

吽形像の、踏ん張る足下。青筋が浮き立つ
金峯山寺蔵王堂・大屋根の組物

 ※1980年代の『男はつらいよ』は、マンネリ化打破のためか、あれこれ手を変え品を変えしたようで、異色作が多い印象。そのなかにあって、『寅次郎物語』は正統派のロードムービーで攻めており、とてもよい出来になっていると思う。
 シリーズを通してみても屈指といわれるあの名ゼリフは、本作の最後に登場。


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