氷室神社のかき氷と、奈良博・なら仏像館
近鉄を乗り継いで、奈良市へ。
まずは、氷の神様を祀る「氷室神社」。
東大寺の1つ手前のバス停、奈良国立博物館の真向かいにあるこのお社は、とりわけ夏場、外国からのお客さまやカップルたちで賑わいをみせる。
彼ら彼女ら、それにわたしが氷室神社に集うのは「献氷」のためだ。
見慣れない字面だが、読んで字のごとく、神前に氷を献上する行為である。こちらがその写真。
春日野の神水からできた氷塊を、神職の方みずから機械でガガガーッと削ってくださったこの氷、柏手を打ったあとは “お下がり” として、境内で賞味できる。
ありがたき撤下品(てっかひん)の大盛りかき氷に、カラフルなシロップを遠慮なく掛け分ける。4種のシロップは、掛け放題。幼い夢を叶えたようで、テンションが上がった。
33度の外気で融けてしまわないかひやひやしたが、シロップの手助けがあって、気づいたら完食してしまっていた。
——次の予定までさらに時間があったので、お向かいの奈良国立博物館へ。
本館の特別展「聖地・南山城」を最後までじっくり観るには、時間がちょいと足りない。秋には東博へ(縮小)巡回することであるし……この日は「なら仏像館」のみの拝観とした。
なら仏像館のフレンチ・ルネサンス様式の建築は、明治27年(1894)竣工、片山東熊設計による奈良国立博物館の旧本館(重文)。ここでは奈良博の館蔵品や、奈良県内をはじめとする寺社から寄託された仏像が常時陳列されている。
性質上、展示替えは頻繁ではなく、それゆえ希望する作品との再会が比較的容易に果たせるのがうれしい。
この日も、旧知のみほとけたちとの邂逅を楽しんだが、なかでもとくにグッときたのは、小金銅仏などの小部屋だった。ほとんどが手のひらに乗せられるほどの小品で、菩薩の立像が多い。
玉を両手で挟んでいる姿が、おにぎりをにぎる格好に似る奈良・興福院(こんぷいん)の観音さまに、両手を「ニ」の字状に平行に構え、拍手をしているような大阪・河内長野の観心寺の観音さま(いずれも飛鳥時代・7世紀)……どれも古拙で、たいへん愛らしい。
斑鳩・法起寺の《菩薩立像》(飛鳥時代・7世紀 重文)も同種の趣をもつが、こちらは少しミステリアスな雰囲気をまとってもいる。法隆寺・夢殿の秘仏、聖徳太子生き写しの《救世観音》にそっくりで興味深い。
塼仏(せんぶつ)や塑像の残欠もあった。
近江の古代寺院・雪野寺の跡から大量に出土した《塑像断片〔天部・僧形像ほか〕》(奈良時代・8世紀 滋賀・福命寺)。京都大学に収蔵された童子像(下の写真)がよく知られており、奈良博に今回出ていたのもこれに類する作例であった。
かつての雪野寺には法隆寺五重塔初層の塔本塑像のような荘厳があり、塑像はその一部とみられている。群像とはいっても、どの欠片も細部にわたり入魂の作行きとなっていることに、改めて驚かされた。
残欠といえば、新薬師寺「香薬師」の右手もこの部屋に。うるわしき御手の無事を、なめるように確かめた。
※「香薬師」については、こちらの回でも書いた。
——ここに挙げた小さな仏像から、高さ5メートルの大きな仏像まで。奈良博のなら仏像館では、さまざまな仏像を観ることができる。
この日の訪問は、空き時間に、気になったものをつまみ食いするといったものだった。美術館や博物館の展示にも、そんな使い道があったっていいのではないだろうか。
※「南山城」展、東博での会場は本館・大階段下の展示室「特5」で、奈良博での本館全体を使った規模に比べると、大幅に縮小されたダイジェスト版となるのは必至。