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カンタ——母からの贈り物:1 /岩立フォークテキスタイルミュージアム

 自由が丘の「岩立フォークテキスタイルミュージアム」は、中南米や中東、アジアなどの民族衣装・テキスタイルを展示する、1フロアだけの小さな美術館。この道50年以上、多くの著書をもつコレクターの岩立広子さんが開設、運営している。
 日本民藝館でリーフレットを得て来訪してからというもの、近隣の五島美術館や静嘉堂文庫美術館、いまはなき川崎市民ミュージアム、あるいは渋谷での用事と組み合わせて幾度か拝見に上がることがあった。本日のお出かけも、五島美術館との組み合わせとなる。

 開催中の展示は「カンタ——母からの贈り物」。
 カンタとは、バングラデシュと国境を接するインドの東端・ベンガル地方の女性たちがつくる敷布。着古したサリーなどを4、5枚重ねて生地とし、一面に刺繍を施したものだ。

 この刺繍がおもしろい。
 カンタの文様は、引きの状態ではペルシャの絨毯のような規則性のある構成に見える。
 しかし、もう少し落ち着いて見てみると、四隅や中央の決められたところにメインのモチーフが配置されるほかは、左右対称が徹底されていない。一定の型を保ちつつも、あとはご自由にといったところだ。
 奔放にならずに全体のバランスがとれているのは、この「型」がしっかり下支えしているからでもある。

 解説によると、カンタは来客や祭礼の際に敷き物として使われるほか、出稼ぎに出る夫が旅先で膝掛けにしたり、赤ちゃんのくるみ布にもなるという。
 洋の東西を問わず、「文様を施す」という行為には、単にきれいだとかかっこいいだとかを超えた、破邪=魔除けの願いがこめられていることが多い。無地であっても用途としては成り立つのに、手間暇をかけておめでたい吉祥文様で埋めつくす背景にはそういった確たる理由、切なる願いが控えているのだ。
 豊かで密度の高い文様をもつカンタのさまざまな用途を知るに至って、わたしのなかでは大いに合点がいった。
 大切な存在を、邪なるものから護りたい。
 どれもが、そんな思いが生じうるシチュエーションだったからである。(つづく


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