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カンタ——母からの贈り物:2 /岩立フォークテキスタイルミュージアム

承前

 カンタに刺繍されるモチーフは、人物、動物、植物、道具類など。
 そのどれもが、なんというか非常に「ゆるっとした」描写で縫いつけられているのだ。児童画のようなあっけらかんとした素朴さ・楽しさがあって、自然に笑みがこぼれる。
 バリエーションもさまざま。喫煙具のような卑近なモチーフもある。懐中時計が描かれたカンタは、都会の家庭でつくられたものだろうと解説にあった。
 こういった種々のモチーフは全面に散らされているから、目を皿にして隅々まで観察してしまった。

 縫いの技術そのものは、お世辞にも高度といえる代物ではない。輪郭は破線で表されているし、塗りつぶしの密度は低い。まことに “拙なるもの” だ。
 それでいて……というか、だからこそ、ひと針ひと針をこつこつと通してきたさまがありありと浮かんでくる。
 カンタは、母親が家族のために古布を再利用して手縫いを施し、その家庭内で使われたもの。家事や野良仕事の合間に、時には夜なべをして、ちくちくと手を加えていったのだ。そこに百戦錬磨の職人・芸術家の腕前や、機械の精巧な技術が介在することはなく、つくる人・場所と使う人・場所が同じ「家」の中に存在している。
 となると、カンタに描かれる人物はパターン化された「人物文」ではなく、ある特定の人物――つくり手にとっての家族の肖像画ともなっているはずだ。そう気づくと、見え方がまるで変わってくる。
 製品や商品としてこの世に生み出されることがなかったものだけがもつ、人肌の温かみ。それがカンタの魅力になっている。

 岩立さんは、自信をもってこのようにおっしゃっている。

「カンタを見て心動かされない人はめったに居ないでしょう」

 ほんとうにそうだなあと思う。


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