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水田コレクション展 四季の風物詩:3 /城西国際大学水田美術館

承前

 宮川長春《江戸風俗図巻》とともに本展のメインビジュアルに起用されたのは、楽しげに羽子板を突く、晴れ着姿の活発な女の子。山本昇雲《今すがた 羽子あそび》の背景切り抜きだ。

 山本昇雲は明治~大正期に活動した浮世絵師・画家。こういった無邪気な子どもの遊びようや暮らしぶりを描いた作が、近年じわじわと認知されつつある。
 水田コレクションでは13点を所蔵。そのうち4点が展示されていた。

 月岡芳年《風俗三十二相》からは、《うれしさう》《すずしさう》《あつたかさう》の3点を展示。
 《うれしさう》は、蛍を捕まえて「うれしそう」な図。

 うれしいからといってにっこり笑うのでなく、とっさにくわえた団扇で口元を封じ、目もとや手の仕草で感情を表現している。透け感のある紫の浴衣も粋だ。

 いまの季節に合うものとしては、《あつたかさう》。

 こたつに入ってぬくぬくと読書する、後家さん。こたつの上には蜜柑……じゃなくて、猫が寝ている。「猫はこたつで丸くなる」というわけで、この図ではこたつの「中で」でなく「上で」丸くなっている。
 猫の寝顔は、あえて見せない。一見しただけではなんの物体か把握すらできないけれど、ピンと立てた片耳と背に走る黒い模様とで、どうやら猫なのだなと察することができる。
 昨今、猫は液体だといわれることも多い。本図の猫も溶けかかったようであり、作者・芳年が日頃より猫に親しんでいたさまが、こういった描写からもうかがえよう。

 本展には浮世絵版画・肉筆画とともに、2点の近世の屏風が並んでいた。
 ひとつは《賀茂競馬(かものくらべうま)図屏風》。英一蝶の落款がある。
 京都・上賀茂神社の祭礼を描いたもので、人物が密に描かれ、たいへんににぎやか。境内のようすを思い浮かべながら拝見した。
 おもしろいのは、人物の顔つきが男女問わず、ほとんどみな同じ描きぶりになっていること。それがなんとも滑稽で……一蝶その人でなく町絵師の作とは思われるが、顔以外の描写、とくに身体の動きなどは堂に入っていて、楽しめる屏風である。

 特別出品として東金市蔵、この館に寄託の朝岡興禎(こうてい)《春秋田園風俗図屏風》も。
 朝岡興禎は幕末の狩野派の絵師で、みずからの画業よりも、画人伝『古画備考』の著者として知られる人物。『古画備考』は基礎的な文献としてしばしば活用されるものの、興禎のちゃんとした作品を観たのは初めてだった。
 余白を大きくとりながら、右隻に春、左隻に秋の田園を描く。画面を構成する諸要素が島のように分かれて散らされており、見覚えのある図様もちらほら。粉本を組み合わせたことが推測される。
 さっぱり、おっとりとしていて、室内をさりげなく飾るにはこれくらいのほうがよいのかもしれない。

 東金市のホームページによると「東金の大商家であった川嶋家が、ある時期(嘉永3年火災、新築以降であろう)、出入り商人を通して、没落した大名家より、金屏風とともに購入した」とのこと。興味深い来歴だ。

 1時間に1本の電車に間に合うように美術館を出て、1駅手前の東金駅で下車。
 駅前の通り沿いには、大店の商家が点在していた。立派な門構えの古そうなお宅も多い。
 かつて「上総のこがねまち」として栄えた商人の町の歴史が、この屏風の裏にも隠れていたのだ。

表通りにあるこうした堅牢な建物は、たいてい銀行や信金といった印象だが、こちらは書店。文化2年創業、千葉県最古の書店とのこと!(この建物は現在はカフェになっている)
上の写真の奥。明治の洋館で、もと税務署という
このような商家が、昔は軒を連ねていたのだろう。いまは点々とある程度。右の黄色いお店は「際物店」という珍しい業態。「際物」には、もともと「季節商品」という意味合いがあるらしい。看板によると、七五三、五月人形や雛人形、盆提灯の小売から、葬儀の手配などもしてくれるとのこと

 ※本日のカバー写真は、城西国際大学キャンパス内の破れ蓮
 ※芳年《風俗三十二相》については、こちらの更新分で取り上げた



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