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水田コレクション展 四季の風物詩:2 /城西国際大学水田美術館

承前

 浮世絵が主体の水田コレクションを築いたのは、城西大学の創立者である政治家・水田三喜男。没後しばらくして、故郷の千葉県内に城西国際大学ができた。
 城西大学は埼玉県坂戸市、城西国際大学は千葉県東金市に所在する。どちらのキャンパスにも大学名を冠した「水田美術館」があって、水田コレクションを共用しながら展示活動をおこなっている。今回、わたしが訪れた千葉の城西国際大学水田美術館は、図書館と同じ建物の一角、1.5室分ほどの小さな展示スペースであった。
 名品図録などからコレクションの特筆すべきポイントを抜粋すると、まず第一に写楽が9点もあること、鈴木春信の揃い物《六玉川》全6図が上質な保存状態で所蔵されることが挙げられる。《六玉川》をコンプリートする館は、米・メトロポリタン美術館と水田コレクションだけという。
 写楽が何点含まれているかは、浮世絵コレクションの質をはかるうえでひとつの基準になるとか。水田コレクションは、全体の総数としては多くはないものの、非常に質が高いということになろう。
 「四季の風物詩」をテーマとした本展は風俗画・美人画による構成で、写楽の展示はなかったが、春信の《六玉川》から《高野の玉川》が展示されていた。
 ほんとうに「たったいま摺ったかのような」コンディションで、ともすればすぐに褪色してしまいそうな淡い色調まで、堪能できたのであった。《六玉川》の絵はがきセットを購入。そろって展示される機会があれば、また訪れたいものだ。

 今回のポスターやリーフレットに大きく登場していたのは、宮川長春の《江戸風俗図巻》。長春とその工房はこの手の江戸風俗、吉原風景を描いた画巻を多く手掛けており、美術館で観る機会もそれなりにある。本作はそのなかでもよい手で、長春本人の作に帰することのできそうなものではと思われた。
 この絵師の品のよさには、毎度ながら感嘆させられる。多種類の色彩を駆使し、着衣などには細かな意匠を施しながら、仕上がりはどぎつくなく、高雅に華やかにまとめあげる。すばらしい技量だ。
 描かれている人物や服装・小物、建物、自然風景に破綻はなく、細緻に整っているので、江戸の人びとの暮らしや吉原での動きを追ったり、観察したりするだけでも楽しい。
 水田コレクションはデータベースがたいへん充実しており、この長春の画巻についても全貌を閲覧することができる。画像を見ていただければ、いわんとするところを共感していただけるのではと思う。


紅葉のいい時季ながら、土曜日のキャンパス内には人っ子ひとりいない。それもそのはず、入学試験の真っ最中だったのだ(ありがたいことに、美術館はそれでも開館)
やけに大きいカエデの葉。わたしの掌くらいある。アメリカ原産のカエデと知り納得

つづく



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