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鬱病の部下に説教、子どもに叱責する親…。介入できないけど通報スレスレのお客さまたち

飲食店の女将として日々お店に立っていると、それはもういろんな人間模様を目にします。

水商売風のお姉さんの気を必死に引こうとするお客さん風の男性とか、横柄な態度の社長に萎縮しまくるお連れの部下たちとか、来店から退店までひとことも言葉を交わさないご夫婦らしき二人組とか。

もちろん女将の私がそこへ入ってあーだこーだ言うことは一切ないんですけど、ときどき「これはさすがにまずいかな?あいだに入った方がいいかな。もしくはどこかへ通報したほうがいい?」って思うような、少々よろしくない光景を目にすることがあるんですよね。



「お前がどうしたいかだけなんだよ!」鬱で休業中の部下を呼び出し叱責する上司

うちの近所にあるわりと名の知れた会社にお勤めで、年齢は50代前半ぐらいの男性Kさん。

ときどきうちの店を予約しては、部下を引き連れ3〜4名で飲みにきてくださるお客さまでした。


あるときKさんが、いつものメンバーではなく、私服の男性と二人きりで来店されました。

私服の男性は、髪が伸び、背中を丸くして俯いていて、なんだか気力がごっそり抜け落ちてしまっている印象。明らかに仕事帰りではない感じ。

するとその男性に対してKさん、腕組みをしながら説教を始めたのです。

「お前がどうしたいかだけなんだよ!」

Kさんの声が比較的大きいことと、開店してすぐに来られたので店内のお客さまが少なかったこともあり、二人の会話は聞きたくなくても私の耳にまる聞こえでした。

なんでも、部下の男性はうつ病で休職中。

そんな男性をKさんはわざわざうちの店に呼び出し、いつまで休業するのかと叱責しているのです。


お酒の入ったKさんの語気が強くなるにつれ、部下の男性の背中はさらに丸く、声も小さくなっていく。

返事は決まって「いやぁ行きたい気持ちはあるんですけど…」と言葉少な。

つらいんだろうなぁ、早く終わらないかなぁ。いや、私があいだに入って何か言った方がいいのか?余計なお世話だよなぁ。お前、誰?って感じだし。

私はただただ不安げに見守ることしかできませんでした。


開店と同時に始まったこの会は一体いつまで続くのだろうかと心配していたら、なんと閉店時間が過ぎても終わらない。

お会計をお願いしてやっと席を立ってくれる始末です。

合計で5時間。鬱病じゃなくても辛い。


しかもこの会が開かれたのはこの一回だけでなく、その後3〜4回にわたって開催されています。

そのあとはコロナ禍に入ってしまったためお見かけしていません。

店を変えたのか、男性が退社したのか、休業が終わって出社し始めたのかはわかりませんが、もしまた同じようなことがうちの店で起きたとき、どんな対応をするのが適切かと聞かれたら、私はうまく答えることができません。

会社はこのことを知っているのでしょうか。たぶん知らないだろうなぁ。



「食べるまでおうち帰れないからね!」と子どもに叱責する母親

平日のランチタイム。ピークが過ぎた13時過ぎに来店されたのは、ひとりのお母さんと息子さんと思しき小さな男の子でした。

保育園に預けている息子さんが風邪を引いてしまい、母親が迎えに行った帰りのようでした。


注文されたのはランチのお得なセットメニューをひとつ。ひとり一品注文してほしいところですが、保育園児と二人きりでは仕方ありません。

母親はセットのご飯をすぐに食べ終え、男の子がうどんを食べるようすを見守ります。

仕事を早退してきたと見られる母親は心なしか少しイライラしていて、途中から「早く食べなさい、もう少し食べなさい」と語気を強めます。


そうは言われても、お腹があまり減っていないのか、見慣れない場所に気が散るのか、うまく食べられない男の子。

徐々に母親の怒りはヒートアップし、次第に声を荒げます。

「食べないならもう保育園に連れて行かないからね!」
「お母さん途中で仕事抜けてきて、〇〇が元気になってくれないと明日もお仕事いけないのよ?ちゃんと食べてよ!」

最近、人前で子どもに怒る母親って見なくなったものですから、私もびっくりしてつい目線を逸らしてしまいました。

怒られている男の子はというと、慣れているのか意外と平然としていて、ときどきヘラヘラ笑っています。それを見た母親は、再びヒステリックに声をあげます。

「食べるまでおうち帰れないからね!ママ〇〇が食べるまでずっとここで待ってるから!」

いやいや閉店まであと30分を切ってるんですけど…と思いつつ、このとき私はまだ子どもがいなかったので、なんとかして子どもに食事を与えたい親の気持ちはよくわかっていませんでした。

いや、わかっていてもなかなか首は突っ込めません。

うちにはうちの育て方がある、余計なことしないでと言われたらそれまでですから。

しかしこれは親から子へのパワハラだと言われたらそんな気もします。

私の母も昔はかなりヒステリックで厳しい親でした。まるで子どもの頃の自分を眺めているようで辛かった...。


その後、営業時間が過ぎていることを気にした母親がイライラした様子のまま会計を済ませ、男の子の手を引き退店していきました。

うどんはお皿に少し残ったままでした。

おそらく現在、男の子は小学校一年生ぐらい。どうか家族の愛情を目一杯受けて、幸せに過ごしていて欲しいと願っています。



モラハラ?育児放棄?通報ギリギリの異様な光景

これ以外にも、人ごとだと放置していいものかどうか迷う案件は過去にいくつかありました。

たとえば夫から妻への、モラハラとも取れる態度。

店員の私にはニコニコ愛想よく振る舞ってくれるのに、テーブルを離れたとたん目の前の妻に「そうじゃねーって言ってんだろ!」ときつい言葉。

そのあとも「〜じゃねーんだよ!」と、暴言にも思えるような荒々しい声が聞こえてきます。


反論できないのか、萎縮して声が出せないのかはわかりませんが、妻の声は私の耳に全く聞こえません。

料理を運んだときに女性のほうをチラッと見ると、暗い表情でテーブルの一点を見つめていました。

あくまでも私の想像ですが、おそらく普段から夫の強権政治で支配されているんじゃないかなといった雰囲気。何もできない自分を歯痒く思いました。


あるいはこちらも幼稚園児ぐらいの小さな男の子を連れた女性。

来店して自分と子どもの料理を注文すると、そそくさとイヤホンをして、スマホで動画鑑賞を始めます。

男の子は一人遊びをしたり、お母さんにちょっかいを出したりして寂しそう。

母親は自分の料理が運ばれてくるまでまでずーーっとイヤホンをしたまま動画を見ているのです。

当時うちの店にしょっちゅう通ってくださっていたお客さまなんですが、毎回こんな感じで。

私の手が空いていれば息子さんに声を掛けたりもするものの、さすがに母親に何か言うところまではいきませんでした。


これって一種の育児放棄なんでしょうか。だとしたらどこかへ通報するべき?

他人ごとながら、男の子の心の発達が心配になってしまいました。




当たり前ですが、店員がお客さま同士のもめごとや個人的事情に介入するなんて、犯罪行為でもない限りご法度です。

それはもちろんわかっていはいるのですが、どうしても人として放って置けないことってあります。

そんなとき、臆することなく介入できる人も世の中にはいます。

「そんなに言ったら可哀想じゃない!」とか「〇〇くんもうお腹いっぱいよね。残していいのよ〜」って。


なんか昔はこういう、ちょっとお節介なおじさんやおばさんって巷にたくさんいた気がします。

私もけっこうおばさんの域に入ってはきたのですが、なかなかこれができなくて。

やはりどうしても他人事へ首を突っ込むことに二の足を踏んでしまう自分んがいるんですよね。キャラじゃないし、とか思ってしまう。

どうすることが正解なのかは、未だにわからないです。


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