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夏目漱石論2.0

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#高等遊民

『彼岸過迄』を読む 4383 高等遊民にしかできないこと

『彼岸過迄』を読む 4383 高等遊民にしかできないこと

松本恒三は世間にどう貢献しているのか

 妻の見立てはこうである。しかし最後に田川敬太郎の見立てではこうなる。

 一番近くで松本恒三を見ている妻より、田川敬太郎の方が松本恒三の案外なところを発見したという理窟になる。しかしそれは一体何か?

 この問題は田川敬太郎が「発見」という言葉を選んでいることから何か明確なもの、具体的なところを捉まえなくては解かれまい。

 しかし実際、松本恒三は大したこ

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『彼岸過迄』を読む 4378 漱石全集注釈を校正する⑤ 高等遊民は経済的に恵まれている訳ではない

『彼岸過迄』を読む 4378 漱石全集注釈を校正する⑤ 高等遊民は経済的に恵まれている訳ではない

岩波書店『定本 漱石全集第七巻 彼岸過迄』注解に、

 ……とある。『それから』の代助をはじめとする漱石作品の主人公を「高等遊民」の言葉でくくることが多いが、という点に関しては指摘の通り誤解が広く伝搬されている。

 その一つの原因は柄谷行人が創り出している。

 ただし、少しわかり難い説明になっている。

 おそらく注釈者には「経済的にめぐまれ、職業に就かず自由な立場で生活する知識人」という定義

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『彼岸過迄』を読む 4373 丁年未満の呑気生活

『彼岸過迄』を読む 4373 丁年未満の呑気生活

文明批評が影を潜めた?

 
 この『彼岸過迄』という作品も何百万人もの人に眺められた筈ですが、例えば「読書メーター」などではわずかな感想しか見られません。感想を書いて居る人達はいずれもそこそこの読書家らしく、それだけ『彼岸過迄』が敷居の高い作品であるということなのかなと思います。「To the Spring Equinox and Beyond」という英訳本が2004年にも出版されています。こち

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高等遊民について

高等遊民について

 ここにも書いたが代助は高等遊民を自認しておらず、先生もごろごろしているわけではない。

 先生はこのように葛藤していた。これは「遊民」なのだろうか。こういうところをきちんと読まないで、どうしてウイキペディアを編集するのだろう。これを編集した人が「低級遊民」なのではなかろうか。

 高等遊民を自認していたのは『彼岸過迄』の松本だけではなかろうか。川端康成の『雪国』の主人公・島村は一応「文筆家の端く

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文章を正確に読むとはどういうことか②

文章を正確に読むとはどういうことか②

 こんなことを私が書いても「いや、そんなはずはない」で通り過ぎる人しか存在しないだろうが、やはり柄谷行人は夏目漱石に関して何か述べようとする度にとんでもない勘違いを露呈させる。

 この書きぶりからすると柄谷行人は田川敬太郎という名前を思い出せなかったようである。そのことはよいだろう。しかし「高等遊民」の意味まで忘れて、なぜこのように持ち出してきたのか、その神経が分からない。

 残念ながら『それ

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