2023年映画感想No.65:キングダム 運命の炎 ※ネタバレあり
シリーズに思い入れのない人間が観たシリーズ最新作
キネカ大森にて鑑賞。
原作未読、前作は未見。1作目はテレビで見たので、1作目に出てたキャラクターならわかるぞ!という程度のリテラシーで観た。なので今回はいつもと比べてだいぶぼんやりした感想になると思います。
今作の敵にあたる趙の国の軍
仲良しトリオだと思っていた山崎賢人と橋本環奈と吉沢亮が冒頭から別々に行動していていきなり意外な展開。まんまバーフバリな石像ダイジェスト演出で山崎賢人が大沢たかおの元で修行していたことが説明されるのだけど、描写に具体性が無いのでこの時点では「とにかく成長した」ということしかわからない。
まあ戦国時代の話だから大概は国を攻めるか国が攻められるかの話だろうとは思っていたのだけど、ちゃんと国が攻められてどうしましょうというところから話が始まってくれるのが極めてわかりやすい。
主人公たち側の秦の国に恨みを持った趙の国の軍が攻め込んでくるのだけど、その昔に趙に攻め込んだ秦軍が女子供含む趙の国民40万人を生き埋めにして殺したらしく、そりゃあ恨んで当然だろうとどっちを応援すればいいのかわからない気持ちになるエピソードを聞かされる。
趙は軍を統率できるほど有力な将軍がいないと思っていたから侵攻は不意を突かれた、という流れで趙側の強キャラとして山田裕貴と片岡愛之助を紹介する見せ方がスマートで良かった。
単体の映画の脚本としてはやたら数の多い登場人物たちを全く捌ききれてはいないのだけど、一方でキャスティングだけで印象が残る人物造形を成立させている点は作品通じて素晴らしかったと思う。演じる人やキャラの描き方による多少の差はあるけれど、演技演出のバランスや美術装飾含めた世界観などにそこまでチープさを感じなかったところも良かった。
趙軍でいうと白赤基調の鎧がデザインとして◎。
いちいち豪華なキャスティング
戦の前に秦軍総大将を決める軍議があるのだけど、この会議に参加する俳優のメンツも異様に豪華で一々びっくりしてしまった。佐藤浩市と高嶋政宏がやたらピリピリしているのだけどこの映画内ではなんでなのかよく分からないし、佐藤浩市側だと思った玉木宏がこっそり大沢たかおを呼んだりしていて、全員腹にイチモツあるっぽいけどそれがなんのためのなんなのかがずっとわからなかった。国がピンチだって言ってるのにそれすら権力争いに使おうとするのは「政治!」って感じではある。
とにかくこの映画単体だと佐藤浩市や玉木宏がここに配役されている理由が全くわからないのだけど、思わせぶりな部分を色々考えながら観るのは何も知らない人間的には中々面白かった。
吉沢亮の回想パートの弱さ
山崎賢人と要潤を連れた変態チックな大沢たかおが戻ってきたことで総大将議論は決着するのだけど、今度は「総大将になるにあたってお前の覚悟を聞かせろ」的な感じで吉沢亮の過去の回想が始まる。シリーズ3作目にして改まって吉沢亮が王を目指す動機の話をすんのかとも思うのだけど、僕のような一見さん的にはありがたい構成でもある。
父親である秦王と一緒に趙の国に囚われていた吉沢亮は父親が自分を置いて救出されてしまったことで残された趙の国で敵国の王子として迫害されている。「街中で囲まれて殴る蹴るの暴行を受ける」というこれ以上無いほど類型的な迫害描写にびっくり。40万人生き埋めにされた恨みや怒りの描写としてもチマチマしててぬるい。
ここの描写が弱いせいで吉沢亮の語る孤独や人間不信に切実さや説得力があまり感じられないのだけど、そんな心を閉ざしている吉沢亮をほだす役割の杏演じる闇証人側も同じくらい「人生に絶望してきたけれどある人に救われた」という背景に説得力を持たせる描写が不足しているので、説得する側もされる側もドラマが薄い。
杏が語る「嫌いだった月が好きになった」という話が中身スカスカの綺麗事でガクッと来たし、それであっさり励まされる吉沢亮もどうかと思う。杏はその後も頼んでないのに吉沢亮の脱出を命懸けで助けてくれるのだけど、最後まで見ても吉沢亮にそこまでしてくれる理由が(逆にいうと吉沢亮がそこまでしたくなる人物である理由も)全くわからないので、とにかく関係性が上滑りしている。
馬車と騎兵のチェイスシーンも並走して弓を射ってきた敵兵がカットが変わるといなくなっていたりして、「さっき大ピンチだったのになぜかまだなんとかなってる!」というカットの繋ぎ方が逃げ切れる展開ありきに感じられてしまう。杏の弟役の浅利陽介が吉沢亮を守りながら戦ってくれるのだけど、どう見ても吉沢亮も戦わないといけないくらい追い詰められてきたところで「俺も戦う!」と立ち上がった吉沢亮を無理して止めたら敵に斬られて致命傷を負うという何がしたいのかよくわからないやられ方をしてしまうのが残念だった。
そんな感じで「命懸けで自分を救ってくれた人がいる」という吉沢亮の回想シーンは中身が薄いし脚本的には丸々無くても成立するしで構成的にすこぶる弱い。一応山崎賢人がその話を立ち聞きしていることで奮い立つ理由にはなるのだけど、お互いの志を共有するという描写なんてここに至るまででもいくらでもあっただろうし、今更これがいるのかという疑問を払拭するには至らず。
見どころ解説でわかりやすい合戦の構図
中盤からの合戦が始まる前に軍師見習いの萩原利久が橋本環奈に説明するという形で観客にも見どころ解説してくれるのが非常にわかりやすかった。数で不利、兵の戦闘力でも不利である秦軍が趙軍本陣を攻めるためのヒントが提示されるのだけど、ここでの分析が大局的観点に終始していることで合戦の規模的に兵士個人が戦局に与える影響は極めて低いことも伝わるし、だからこそ「小さな存在」である山崎賢人百人兵がキーになることに敵の裏をかく作戦としての説得力が生まれている。
山崎賢人のリーダーとしての成長
山崎賢人百人兵は招集当時から決して一枚岩では無いのだけど、山崎賢人のリーダーとしての成長が肝心なところでのチームの結束に繋がるような描き方も良かった。子供が生まれたばかりで死ぬことが怖いという佳久創にこの戦いがどういうものかを説明するセリフは素晴らしかったし、崖登りの途中で作戦が上手くいかなくなりかけた時に味方からの提案を受け入れるところも過去シリーズの無鉄砲さからの成長が感じられた。
やや無理があるクライマックスの描き方
崖を越えて敵本陣に特攻していくクライマックスは守る敵兵かあまりにも主人公たちを殺す気が無くて、山崎賢人だけならまだしも百人兵のほとんどが生き残るのは流石に予定調和すぎると思った。武器持ってる敵兵がタックルで百人兵たちを止めていて意味がわからない。タックルできるなら殺せよ。清野奈々と山崎賢人の連携プレイで人垣を切り崩していくところはこの映画で一番アクション的な見応えがあった。
総大将の片岡愛之助まであともう少しというところまで近づいた山崎賢人が「何かチャンスに繋がる隙が生まれないか!」と戦いながら必死に考えるので僕も観ながらそこのロジックを楽しみにしていたのだけど、片岡愛之助がめちゃめちゃ説明的なモノローグで勝手に不安になり始めた挙句「ビビったので逃げよう」とか言い始めるし、ちゃんとそれが致命的な敗因になるしで急に展開が雑になってしまった。ここまでそんな心の声演出なんて一つも無いだけに演出的にも悪い意味でせり出して見える場面になっているし、本来一番美味しい見せ場になるところをなぜか適当に処理する手付きにすごくガッカリした。
次作に引き継がれる多くの要素と強烈な引っ張り演出
総大将が討ち取られてわんさかいた敵兵たちがモリモリ戦意を喪失していくのが将棋みたいだった。山田裕貴や山本耕史は何もしないままサラッと戦場からいなくなってて「片岡愛之助は我ら三人の中では最弱」的な次作持ち越しの展開。平山祐介も「実力を見せてもらいますよ」と期待を煽る形で戦場に送り込まれたのに実力を見せるような場面はほぼ無し。シリーズ作品とはいえここら辺の交通整理力の低さはどうかと思った。
百人隊は少なくとも顔のある役者は全員生き残っていて、合計でも40人弱しか死ななかったらしい。奇跡だと思う。
ラスト近くには次作以降の主要キャラ匂わせとして小栗旬が登場。ビッグネームすぎて流石にビックリなサプライズ演出。
ラストに最強キャラとして吉川晃司が登場。やべきょうすけを瞬殺。この映画内の秦軍ではここにきて初めての人死にらしい人死に描写ではあるのだけど、それにしてもシリーズ的には思い入れが無いキャラクターが死に役にチョイスされていて悲壮感は薄い。
総大将のくせに単身乗り込んでくるイカれっぷりも含めて明らかにヤバい雰囲気のやつが目の前にいる絶望感が凄まじいのだけど、ここから百人兵がどう生き延びるのかは次回作に丸投げされたところで本作は終わる。
エンドロール途中には長澤まさみの次作参戦予告があって、この辺もシリーズ次作への引っ張りがしたたか。やっぱり1作目を観た人全員が良かったと評した長澤まさみを2作目で出さなかったのは悪手だったと作り手もわかっていたのだろうし、ちゃんと足元からの舐めるようなカメラワークで登場するのもキャラの魅力をよくわかって撮っている感じがした。ポスターアートに長澤まさみが映っていたのも一応フェイクじゃないよ、という言い訳もできる。
それにしてもキャストが豪華でビビる。今回の作品でも主要キャラはほとんど死んでいないので次作のキャスティング料払えるのかと変なところが心配になった。
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