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個別支援に必要な、5つの保健師スキル。

保健師が行う業務は、乳幼児健診、健康相談、健康教育など多岐に渡りますが、個別支援もそのひとつです。そしてこの個別支援こそ、保健師としての醍醐味を味わえる仕事と言っても過言ではないかもしれません。

その分、責任は重大です。その人の人生を変えてしまうこともあるから。必要があるなら、対応策として、家庭解散の選択肢まで含めることさえあります。

私個人的には、自殺対策を通した個別支援を多く担ってきました。希死念慮者の個別支援は、背景が複雑な場合も多く…。今回は、そんな経験を通して私なりに考える、個別支援に必要な保健師スキルを5つばかりピックアップしてみました。

1.信頼関係を構築する

信頼関係を構築するまでは、本質的な支援のスタートラインに立つことはできません。相手の受け入れ態勢ができていないからです。受け入れ態勢ができなければ、こちらがどんなにいい提案をしたとしても耳は貸してもらえません。

信頼関係を構築するには、まずは聴くことです。どんなに自分勝手なことを言っていたとしても、だいぶズレてることを言っていたとしても。この人になら頼ってみてもいいかも、と思ってもらえれば、次に進むことができます。

保健師には、凄く厳しいことを言わざるを得ない時があります。それは、しっかり現実を本人や家族に見つめなおして、わかってもらう必要があるからです(それがどんなに目を背けたくなるような現実だったとしても)。そして、それがその方たちのためには必要不可欠であると思っているからでもあります。そんな厳しいことを言った時にでも、ちゃんと聴く耳を持ってもらうことが、信頼関係構築を必須とする一番の理由です。

2.つながる、つなげる(社会資源、社会制度の知識)

英語を学ぶのに英単語を知らなければ、単語同士を繋いで心地いい文章を作ることはできません。それと同じで、社会資源や社会制度に関する知識がなければ、心地よく生きられる環境を整備してあげることはできないのです。

任意入院、医療保護入院、措置入院の違いは?
アルコール依存症治療に強い病院は?
生活保護制度の認定要件は?
民生委員にはどこまで頼っていい?
障害年金の申請手順と支給要件は?
お金の管理を手伝ってくれるところはどこ?​

これは、わたしが実際行った、とある希死念慮者への支援で必要とされた知識のほんの一部です。誤解がないように言うと、私にも全ての社会資源、社会制度に関する知識があるわけではありません。だから、この支援を提供する時にも、先輩や他部署の方々にたくさんの助言を受けながらこなしていきました。ただ、やはり、それまでに培った知識があったからこそ、応用編の個別支援を提供できたのだという実感はありました。

だから、たとえを英語学習にもどせば、やっぱり英単語学習の積み重ねが大事。知識が増えれば増えるほど、提供できる支援のレベルは上げられるのだと思っています。

3.言葉の裏にある本質と対話する

相手の言葉を、即座にそのまま受け取ってはいけません。必ず一度こころで受けとめて、その言葉の本質を読む一手間が必要です。怒りの感情をぶつけられたとしても、怒りの裏側には不安があるかもしれません。「もうちょっと頑張ってみます」と言われたとしても、その言葉の裏側は絶望感でいっぱいかもしれないのです。表情や経緯、その場のシチュエーション(時間がない、本音を聞かれたくない人がいる)なども含めて、相手の言葉ではなく、心と対話したいものですね。

4.待つ、機を逃さない

保健師という仕事の性質上、保健師が関わる際には生活の変化を伴うことが少なくありません。そしてこの変化は、保健師にとっては簡単に起こせそうに思えるものであっても、本人にとってはとーっても難しい変化であることも多いのです。だから、一向に支援が進まないこともしばしば。

でも!支援を投げ出さず、程よい距離感を持ちつつ、その変化に対する障壁を出来る限り低くしてあげられるようなアプローチを続けましょう。そのうち「あなたが言うならやってみるか」という気持ちになってくれるタイミングが訪れるはずです。

そして、その時には、そのタイミングを決して逃してはいけません。

心は動くもの。じっくり待てばこっちにも来るし、逃せばすぐにあっちに行ってしまいます。人間を相手にしている以上、それは大前提として、タイミングが来た時の準備を整えておきましょう。

5.家族全体の未来を見通す力

支援を提供する際には、家族の存在を忘れてはいけません。一緒に住んでいなくても、です。ファミリーメンバーのひとりの生活状況が変化するということは、場合によっては家族全体のあり方を変えてしまう可能性も秘めています。良い変化かもしれないし、悪い変化かもしれません。何かを諦めてもらう必要が出てくることもあるでしょう。

私たちの仕事は、家族会議のfacilitatorとして、最善の策を見つけていくお手伝いをすることだと思います。あくまでも最終決定をするのは、本人とそのご家族。新たに発生し得る課題を想定したり、できる限り話し合いの材料を揃えたりなど、より良い決定のためのサポートをしていくのです。

そして、長い間家族と音信不通の場合でも、家族がみんな亡くなっている場合でも、その方は家族に対する想いの中で生きていることを忘れてはいけません。そしてその想いは、保健師の支援を要するような状況においては、一層強くなっている場合が少なくないと経験上感じています。そばに家族がいらっしゃらなくても、胸の中にいらっしゃることは忘れず支援しましょう。


以上、わたしが考える5つのスキルについてお話してみました。もちろんこの5つ以外にも鍛えるべきスキルはたくさんあると思いますが、何かのお役に立てれば幸いです。

保健師の仕事って深いな、とやればやるほど感じています。


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