ピエール・エテックス『大恋愛』可愛い秘書への恋と夢と妄想と
1969年製作の長編四作目にして、初カラー作品。テーマは"妄想"であり、男女様々な登場人物の様々な妄想が映像で語られていく。エテックス演じる主人公は勿論、彼の結婚生活があまりにも安定すぎるために不貞を疑う近所のオバチャンたちの噂話、新人秘書の女の子を口説く練習を手伝うエテックスの親友などの視点で妄想が広がっていき、実際にどこまでが現実でどこからが妄想なのかも分からなくなってくる。その点、矢継ぎ早にボケていた『ヨーヨー』に比べるとやや火力不足であるのは否めないが、平和と同値にある退屈さの中で虚空を見つめるエテックスの憂鬱そうな顔は、紛れもないヨーヨーのそれで嬉しくなる。
これまでの女性遍歴を振り返る冒頭は、幼馴染のイレーネとマルティーヌ、同級生のテレーズなどテンポよく振り返っていて、最終的に全員を花嫁にする妄想に帰結させるのは『キートンのセブンチャンス』っぽくて面白かった。その後、エテックスはフロランスと結婚して幸せすぎる結婚生活を送るが、新人秘書のアニエスが可愛すぎて動揺する。彼はアニエスについてコミカルな妄想と行動への躊躇を繰り返す。最も印象的なのはアニエスへの淫靡な妄想としてベッドに車輪が付いて公道を爆走し始める一連のシーンだろう。ベッドについての妄想が、次第に車の方に乗っ取られていき、事故や渋滞が起こり始める不思議な世界観は妄想というより夢に近い(なぜか苛烈な渋滞に『ウィークエンド』を思い出してしまう)。映画は夢のようなもの、というスタンスはどの作品にも共通しているようだ。
エテックスの仏頂面はキートンに似ているのも彼を想起させるポイントなんだろう。エテックスはニッコリと笑ってくれる分、キートンよりも人懐っこくて可愛らしい。
・作品データ
原題:Le Grand Amour
上映時間:87分
監督:Pierre Étaix
製作:1969年(フランス)
・評価:70点
以下、短編をいくつか掲載。
・『Rupture』
1961年製作の監督一作目。様々な物理的障害のせいで恋文を認められない男の話。その純朴さとすっとぼけ具合がキートンとかに似てる。安楽椅子に座って後ろに重心を掛けたらそのままひっくり返って自決という暴力的すぎる力技エンドには爆笑。
・『Happy Anniversary』
1962年製作の監督二作目。ある目的に中々たどり着けないのは『Rupture』と一緒だが、今回は大渋滞を扱っている。その大掛かりなアクションはキートンやタチっぽい。渋滞を示す煙草の吸殻の使い方は天才的。ヒマワリを選ぶという絶望的なセンスの無さも可愛いったらなんの。
・『Feeling Good』
1966年製作の監督七作目。キャンプをする前半よりもアヴァンギャルドなキャンプ場の後半が死ぬほど面白い。息苦しい社会からの逃避の寓話。
・ピエール・エテックス その他の記事
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・カンヌ国際映画祭1969 コンペ選出作品
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