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シャンタル・アケルマン『私、あなた、彼、彼女』私とあなた、彼と彼女

大傑作。シャンタル・アケルマンの初長編。監督本人が演じる主人公が、恋人と別れた日から綴った日記のような一作。別れて間もない頃は狭い部屋の模様替えとしてマットレスを部屋の様々な場所に置いて寝転がる→手紙を何度も書いて床に並べる→遂には服も着ずに食事は砂糖をそのままスプーンで口に突っ込むだけという生活まで削られていく。この"スプーンで砂糖を掬って口に運び続ける"長回しは『A GHOST STORY』のパイ食い長回しの元ネタだろう。第二幕以降は家の外へ飛び出し、"彼"に相当するトラック運転手や"彼女"に相当する人物と出会い、前者とは暗い車内での手コキから"彼"の人生についての独白、後者とは5分近い長回しの中でレスリングみたいに絡み合って互いの身体を貪り合うセックスが描かれる。"彼"といる時にアケルマンは画面端に追いやられるか"彼"の身体に隠されていて、全編の台詞の2/3くらいをまくし立てる独白長回しは、内容も含めて暴力的だ。一方、"彼女"との長いセックスでは、自身の身体の主体性を取り戻した上で、どこか融合してしまったかのような奇妙さすら覚える。まずカメラによって、"私"と"あなた"が分けられ、"彼"と"彼女"によって"私"が個として分けられるとか、そんな感じなのだろうか。23歳でこれを撮るとか凄いなと思いつつ、この次が『ジャンヌ・ディエルマン』なのも凄いなと思いつつ、本作品はその萌芽が垣間見える。

・作品データ

原題:Je, Tu, Il, Elle
上映時間:86分
監督:Chantal Akerman
製作:1974年(ベルギー)

・評価:90点

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