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アナ・ローズ・ホルマー『The Fits』コミュニティセンターのダンスクラブで起こるアメリカ版"RAW"

傑作。アナ・ローズ・ホルマー長編劇映画一作目。11歳の少女トニは、シンシナティにあるリンカーン・コミュニティ・センターのボクシングジムで、兄のジャーメインと練習している。ある日、体育館で女子ダンスクラブの練習風景を見たトニは、ダンスへの憧れを募らせ入部する。しかし、パンチのパートが明らかにガチすぎる以外、テンポもズレてるし、振り付けも間違えまくっている。そのため、ボクジング時代と同じく、様々な場所でダンスを練習することになる。まぁそこまでは想像の通りだが、本作品はそんなスポ根映画にしては別種の、異様な緊張感が漲っている。最も印象的なのは、ダンスクラブの幹部たち高校生グループの会話をトイレの個室から覗いているシーンで、覗き見から足のショットを経て外に出ると、荷物を残して全員消えているというシーンがある。単純に着替えるのが遅くて他の部員が先に行ってしまっただけなのだが、こういう何気ないシーンでもゾッとするような描き方をしている。そして、それは"ダンス部員たちが痙攣して倒れる現象が頻発する"ことで具現化されてしまう。

身体や精神の変化への不安と受容をメタフォリカルに描くという点で、本作品はジュリア・デュクルノー『RAW』に近い部分がある。主人公が1mmも動じてなさそうなのも含めて、本作品は全体的に恐ろしいくらいドライなのだが、だからこそ彼女たちの行動を繊細に描くことで、その心の揺れ動きを捉えている。

・作品データ

原題:The Fits
上映時間:72分
監督:Anna Rose Holmer
製作:2015年(アメリカ)

・評価:80点

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