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バス・ドゥヴォス『Violet』ベルギー、目の前で死んだ親友の不在

傑作。バス・ドゥヴォス長編一作目。15歳のイェッセは親友ヨナスと帰宅中、人気のない地下街で二人組の若者に襲われる。彼らが狙ったのはヨナスだけで、何を話したのかも明かされず、監視映像越しにヨナスが刺されて倒れたことしか分からない。結果として彼は死んで、イェッセだけが唯一の目撃者として生き残った。イェッセはただ見ていることしか出来なかった。同年代の友人達は、ティーンらしく無遠慮な質問もしながらイェッセとこれまで通り遊んでくれているが、彼の心は晴れない。ほとんど台詞もなく、彼を包み込む空間を見せることで、停滞した時間に感情を纏わせ、それによって感情に質感を持たせている。例えば、手前を横切る蝋燭を手にした集団(大きくピンボケ)を遠目に見ているイェッセが画面中央奥にいるというシーンは、列にも入れずコチラ側にも渡れずに独りでいる姿が強調され、その孤独を共有する。ちなみに、このシーンは後に清掃員が花束と溶けて固まって床にこびり付いた蝋を容赦なく捨てていくシーンにも繋がっている。人間が二度死んだ瞬間みたいで、このシーンはマジで怖かった。

また、編集のスピード感も良い。これってヨナス?血まみれじゃんwwと少年がスマホを見せてきた次のシーンで、何かを殴る音→唇が切れていて呆然としている少年→自転車を蹴りつけるイェッセという動線で思考を導いていくのとか。早朝の誰もいないベッド→父親が通りに出る→イェッセを背負った父親がガレージに入るという流れも素早い。それでいて彼らの感情の変化を一瞬で表現できてしまうのだから巧みだ。それに加えて、たまにカメラがヨナスの視線を共有するように浮遊したり、ヨナスが存在するかのように無人の自転車を並走させる少年が登場したり、何を映しているのかも分からない粗い映像(ヨナスの最期を看取った監視カメラが意思を持ったかのような)が登場したり、不可視の存在や時間を可視化していくような映像も多い。これは三作目『Ghost Tropic』とも共通している。また、ベルギー繋がりなのか、ルーカス・ドンは『CLOSE / クロース』の後半部分で本作品をかなり意識していると思う。特にイェッセがヨナスの家を遠くから覗き見るというシーンなんかは結構まんまなショットで登場。ならば、今度はBas Devosがカンヌに行く番だ。といいつつ、ベルリンで成長していってほしいなぁといつベルリン贔屓おじさん心もあり…

追記
題名に『Violet』が選ばれた理由は"バイオレンス"と語感が似ていること、可視光と不可視光の間に置かれた、文字通り"見えるものと見えないものの境界にある光"であるから、らしい。確かに、亡くなったヨナスは終盤で光として可視化されている。

・作品データ

原題:Violet
上映時間:85分
監督:Bas Devos
製作:2014年(オランダ, ベルギー)

・評価:80点

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