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Paulo César Saraceni『Porto das Caixas』ブラジル、夫を絶対殺すウーマンと化した妻の復讐

傑作。Paulo César Saraceni(パウロ・セーザル・サラチェーニ)長編一作目。脚本家ルシオ・カルドーソとの共作三部作の第一篇で、『郵便配達は二度ベルを鳴らす』の映画化作品。といっても前半部分の夫を殺すところまでを描いている。主人公イルマは常に凡愚で口煩い夫を殺害することを考え、そのためには手段を厭わない。特に序盤でブチギレてからは絶対殺すウーマンと化して、その沸き立つような殺意を隠そうともせず、使えそうな男たちをスカウトしては放流するを繰り返す。夫に渡された金で斧を買うシーンなんか、真っ先に人を殺せそうなクソデカ斧を購入し、満面の笑みで"木も切れますね!"と言ってみたり、家まで呼び付けた床屋のカミソリを触りながら"喉とか切れんじゃない?"と言ってみたり。また、冒頭の夜のシーンから自宅における陰影が凄まじい。開け放たれた扉や窓の向こうには何もないんじゃないかというくらい暗い。逆に昼間のシーンは室内が暗く、室内から見た屋外や家の外壁が驚くほど白い。この強烈なモノクロの鮮やかさが、イルマの心の内をそのまま表しているかのようでもある。また、自宅はある種の不幸の溜まり場であり、それが暴力への欲望として直接的に表出する空間でもある。イルマの目線の先にはちゃんと人を殺せる用の斧が置いてあり、逆に夫はイルマを従わせようと躍起になる。終盤で唐突に登場する政治家は上辺だけの言葉で演説を紡ぎ、その裏でイルマは意気地なしの協力者を見捨てて自ら夫に斧を振り下ろす。社会の周縁で生きることを余儀なくされる"見捨てられた人々"の体制への怒りが画面の上で交錯する瞬間だ。

・作品データ

原題:Porto das Caixas
上映時間:80分
監督:Paulo César Saraceni
製作:1963年(ブラジル)

・評価:80点

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