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アンドレア・シュタカ『Mare』幸福でも不幸でもない退屈さ

アンドレア・シュタカ長編三作目。今回の主人公マーレは夫ドゥロと三人の子供たちと共に、ドゥブロヴニク空港の直ぐ側にある借家で暮らしている。夫の稼ぎは多くないが、子供たちに手がかかるからとマーレの復職には消極的で、夫と子供たちが仕事と学校に行った昼間の時間は、家の中で様々な家事を一人でこなしている。象徴的だったのは、多少の喧嘩はあれど基本的には仲の良い一家がくすぐり合いをして戯れている中で、一人だけ焦げ臭い香りで我に返ってその場を離れるというシーンだ。彼女は家族内の交流ですら満足にさせてもらえないのだ。ドゥブロヴニクは『ゲーム・オブ・スローンズ』のロケ地となったことで観光客も増加して中心地は賑わっている、しかしマーレは郊外の借家で退屈で不安定な生活を強いられている。反抗的な長男ガブリエルに自分が出来なかった高校卒業をさせることで、子供たちにはここから抜け出してもらいたいと思っている。そんな彼女の静かで退屈な日常を淡々と描いている。そこに登場するのがポーランドから出稼ぎに来ているピオトルであり、彼はマーレの不安と不満を一時的ながら打ち消し、セックスという形で発散させる。彼との逢瀬は根本的な解決にはなり得ないが、どん詰まりの突破口にはなり得るのだ。

とは言え、これまでの作品で様々に複雑な女性描写をしてきたシュタカの最新作としては不足が多い気がする。勿論、マーレの伯母がスイスにいた、マーレ自身も家族に反対されなければスイスに居続けられた、という過去があり、それらは『Das Fräulein』の続編のような(そしてマーレ役のマリア・シュカリチッチも同作、というか全長編に出演)立ち位置を匂わせてくるが、本作品の"家父長制は制度ではなく疑問を持たない伝統"とも見える帰結はあまり乗り切れない。

・作品データ

原題:Mare
上映時間:84分
監督:Andrea Štaka
製作:2020年(クロアチア, スイス)

・評価:60点

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