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ホン・サンス『A Traveler's Needs』マッコリ大好きナチュラルサイコ教師ユペール

2024年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。毎度毎度のホン・サンス。2020年から毎年コンペに選ばれて(2023年はエンカウンターズだが)、なんらかの賞を受賞しているので、もうそろそろ放置でもいいだろというのが正直なところ。本作品は『クレアのカメラ』以来6年ぶり三度目となるイザベル・ユペールとのコラボ作品である。ちなみに、もはや裏でイチャつくことに決めたのか、今回もキム・ミニは製作のみ担当している。本作品の主人公イリスは韓国にてフリーでフランス語を教えている、マッコリ大好きな自由人。数ヶ月前に発明したという、英語でした日常会話をフランス語でカードに書いて繰り返し読んでもらう手法で授業を進めている。教科書買わないの?という当然過ぎる質問には"この手法がハマる人もいるっしょ"と自信満々に返し、生徒が好意で楽器を弾き始めると瞬時に立ち上がって容赦なく煙草を吸いに離れ、セッション中は隙あらば"ねぇねぇ今どんな気持ち??"と生徒に詰め寄り、生徒が慣れない英語で絞り出した答えをカードにフランス語で書いて渡す、という中々のイカれ教師っぷりを発揮する。じゃあまた来週!などと言って笑顔で別れているが、その来週が永遠に訪れなさそうな詐欺師感。ちなみに、作中では二組の生徒に向けて二回セッションをしており、同じ質問へのそれぞれの答えが不気味に一致するといういつものやつもあった。すると、ユペール姉さんはどういうわけか同居している韓国人の青年の家に帰り、ここでも謎の電気マットの通電を確かめるために青年の足を踏みつけたり、二人の出会いが公園で下手くそなリコーダーを吹き散らかしてたユペール姉さんに青年が一目惚れしたからだったり、ヘンテコエピソードばかり登場。基本的な会話は英語、韓国人同士は韓国語で必要とあらばフランス語が登場する国際色豊かな会話表現が、他者とのコミュニケーションの難しさ(多分自分より年上の恋人という存在にドン引きしつつフランス人に感化される息子にバチギレる青年の母親に顕著)を物語っているが、ユペール姉さんのナチュラルなサイコムーヴばかり目立っているので、もうそういう映画にしか見えない。

・作品データ

原題:여행자의 필요
上映時間:90分
監督:Hong Sang-soo
製作:2024年(韓国)

・評価:80点

・ベルリン映画祭2024 その他の作品

★コンペティション部門選出作品
3 . アブデラマン・シサコ『Black Tea』広州のアフリカ系移民街に暮らす人々の物語
5 . ヴェロニカ・フランツ&セヴリン・フィアラ『デビルズ・バス』オーストリア、追い詰められた女たち
8 . ブリュノ・デュモン『The Empire』フランドルの"スター・ウォーズ"は広義SF映画のカリカチュア
10 . マルゲリータ・ヴィカーリオ『グローリア!』音楽を理論や楽譜や権力や階級から解放する映画
14 . ネルソン・カルロ・デ・ロス・サントス・アリアス『Pepe』ドミニカ共和国、カバのペペの残留思念が語る物語
15 . ミン・バハドゥル・バム『Shambhala』ネパール、シャンバラへゆく者
19 . ホン・サンス『A Traveler's Needs』マッコリ大好きナチュラルサイコ教師ユペール

★エンカウンターズ部門選出作品
5 . ルート・ベッカーマン『ウィーン10区、ファヴォリーテン』オーストリア、イルカイ先生の教室
13 . Nele Wohlatz『Sleep with Your Eyes Open』ブラジル、"翻訳している相手のことを本当に理解してる?"

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