見出し画像

バイト。


大学の頃、遺跡発掘のバイトをした事がある。


大学での専攻が考古学だったので、長期休暇に帰省しては遺跡を掘っていた。


福岡市博多区は、今でこそコンクリートジャングルになったが、下には弥生時代から中世までの価値ある遺跡が眠っている。


現場に赴くと当然文化財課の現場監督がいて、作業員さんがいた。作業員さんはみんな、60代・70代の日雇いの方々ばかりであった。

僕みたいな若造が勉強目的で来るのは珍しいので、随分と可愛がってもらった。



休憩中、悶えるような暑さの中、とあるおっちゃんと話す機会があった。



年金だけでは暮らせない今、定年退職してずっと日雇いで遺跡発掘を続けているそう。



「早よぅ…暑かけん帰りたか〜!」
「はよ帰らにゃ、母ちゃんから怒られるけんが!待っとるけんねぇ…。」

自分の奥さんの事を、母ちゃんと呼ぶ方であった。

いくつになっても帰る家がある。
待っててくれる人がいる。



母ちゃんの話をするおっちゃんの顔が、誰よりもあたたかく映った。


その方は最後の日に、帰りのバスまで見送りに来てくれた。



笑顔で手を振るおっちゃんの姿だけが、今でも脳裏に焼き付いている。


…あれからもうすぐ10年。



僕が結婚したいなって思うのは、こういう時である。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?