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【長編小説】熊の飼い方

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新社会人になり、不安と期待を寄せる青年。 一方で平凡な毎日に飽き飽きした青年。 そんな二人の青年の苦悩と不安を描いた小説。 ※フィクションです。登場人物や団体は架空のものです。
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#作品紹介

熊の飼い方 15

熊の飼い方 15

光 8

 梟の声だろうか。暗い森の中、一本の道を歩いている。木々が太陽から僕を囲っている。梟の声は聞いたことは無いのだが、このように暗い森の中にいる鳥類は梟しか知らない。
 灯りが一つも見当たらない。進めど進めど前に進んでいる気がしないのはなぜだろうか。額に水がポツッとつく。次第に水が滴る音が聞こえてきた。雨だろうか。その音を聞いていると、脚が水に沈んでいくように感じた。後ろに振り返っても同じ風

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熊の飼い方 14

熊の飼い方 14

影 8

 自室で部屋を見渡しながら考え事をする。
 古代にもし自分が生きていたら、戦時中に自分が生きていたらなど自分がその時代に生きていたら生存しているだろうか、などと考えることがよくある。
 現時点でラインの仕事をしているが、このような仕事は西洋諸国に使われている奴隷の人々はいたって普通の事だったのだろうと感じる。それに加えて少しでも作業が止まると強固な棒や縄でできた大きな鞭で殴打されていた。

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熊の飼い方 1

熊の飼い方 1

プロローグ

 運命なんて言葉はあるのだろうか。人生が上手くいっている人の決め台詞か、上手くいかない人の言い訳にしか思えない。
 ただ毎日の繰り返しの中で変化が起こっているだけである。その中の大きな変化を運命という言葉で片付けているだけだろう。
 今日も同じ作業を繰り返す。機械のように。
 だが、不満などない。なぜなら心は大きく動かないから。大きな不安に飲み込まれることがないから。
 これが僕

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