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ハゲてるやん

 「ハゲてるやん!!!」

突然部屋へ入ってきた、会社の同僚のカズ君がそう言って爆笑した。

そのとき僕は、髪の毛がビッチャビッチャ、頭皮スケスケ、しかし真面目な顔でもう1人の同僚のタケ君としっとり話していたときだった。


状況はこうだ。

僕は、薄毛を気にしている。

そして、中学生ごろから頭皮にフケが湧いており、大人になってからも秋ごろになるとフケが痒くて頭を搔いてしまい、どんどん髪の毛が抜けて薄毛になってしまうのだ。

当時まだ20代前半のヤングな若者だった僕は、このままハゲてしまっては目も当てられないと思い、育毛剤を買って部屋で1人で育毛に勤しんでいたのである。


しかしここで最初の状況の変化が起こった。
 「寒い。」
という声とともに、隣の部屋からタケ君が入ってきたのである。

そう、ここは会社の寮。
僕が住んでいる建物には同じ会社の人しかおらず、暇になると同僚が気軽に部屋を開けて入ってくるのだ。


しかし、タケ君は只者ではない。

タケ君は明らかに育毛中の僕の頭を見たにも関わらず、そのビッチャビッチャスケスケ頭には一切触れずに、いたって自然に僕の部屋へ入り座ったのである。

ここで動揺してしまっては、漢を見せてくれたタケ君に失礼だ。

僕は自分の羞恥心の塊である髪の毛から育毛剤の液が滴るのに気づいていながらも、タケ君に

 「寒いならクーラー切ったらええやん」

と動揺を隠し、いつも通りの会話をした。

 (僕は真夏でもあまりクーラーを使わない主義であるが、タケは真夏にはクーラーを18℃でキンキンにつけて布団で寝るのが好きらしい。
   そして、僕は髪の毛を育毛するのが大好きだ。)


まだ20代前半とは思えない漢2人。

野暮なことには一切突っ込まず、しっかりと雑談をする。

いつもと風貌が変わっていようが、積年の悩みが最も恥ずかしい状況でバレようが、お互いそこには触れずに雑談をしているのである。

そこにはまるで即興でジャズのセッションをしているかのような、ネタ合わせなしで舞台上で即興の漫才を披露しているかのような、お互いがお互いを高め合うライヴ感が生まれていた。

この2人なら、会社を変えることができるかもしれない。
この2人なら、世の中にイノベーションを起こすサービスを世の中へ送り出すことができるかもしれない。

そんな僕の高まりは、招かれざる2人目の同僚、カズ君の登場と

 「ハゲてるやん!!!」

の言葉と爆笑により消し去られたのである。


 「言うなよ、必死に触れないようにしてたのに!!」

と言って爆笑するタケ君。

消えるライヴ感。
鳴りやむジャズ。
撤収されるセンターマイク。


舞台が一気に変わったことを感じたが、ショー・マスト・ゴー・オンの精神で、その後も僕は爆笑されながら育毛風景を披露した。

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