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ねぇ幸せだよ

私がまだ6歳のとき、彼女を家族として迎えたあの日のことを未だに、鮮明に覚えている。

あるペットショップのショーケースの中にいた彼女に私は一瞬で心惹かれ、この子を連れて帰らなければならないと、一緒にいるべき相手だと、きっとあの時直感的に思った。

当時の私は自分のことなんて何一つ自分で出来なかった。ご飯を食べることが嫌いだったし、朝一人で起きることもできなかった。身支度だって1人じゃできなかったし、そんな私が犬のお世話をするなんてどう考えても無理だった。


それでも両親に懇願し(本当に懇願だった)、自分のことは自分でやること、散歩にちゃんと行くことを約束に彼女を家族として迎え入れることを許してもらった。結果直ぐには約束は守れなかったけれど、家族みんなで彼女と一緒に暮らしていった。彼女の名前は、チョコといった。



私が帰ると毎日玄関まで迎えにきて、尻尾をこれでもかというくらいに振って喜んでくれた。セミが好きで、夏にはセミを追いかけ回していた。牛乳が好きで、たまに内緒でこっそりあげるとものの数秒で飲みきっていた。りんごが好きで、皮を剥く音だけでキッチンまで走ってきていたけれど、最後までじゃがいもの皮を剥く音とりんごのそれとだけは区別がつかないみたいだった。



機嫌が悪いときには耳が聞こえないフリをしていた。何度名前を呼びかけてもわざとらしくそっぽを向き続ける彼女はとても可愛かった。


さんぽ!と言うと飛び上がって喜んで、何度も一緒に散歩に行った。私の言葉を理解していたかどうかは分からないけれど、チョコを相手に私はいろんな話をした。学校のことや部活のこと、恋人のことやいろんな悩み。


悲しい時や落ち込んでいる時、彼女はそんな空気を感じ取れたのか、いつも側に寄ってきて顔をぺろぺろと舐めてきた。いくら振り払っても側にきて、じっと座って私の気持ちが落ち着くまで待ってくれた。私はいつも彼女の優しさに救われていた。


高校生になって、大学生になって、一緒に過ごせる時間はどんどん少なくなった。そして最期、チョコがこの世を去る時にわたしは側にいてあげることが出来なかった。仕方のないことではあったけれど、いつまで経っても後悔してもしきれない。最後くらい側にいてあげたかった。幸い、火葬には間に合って実家に戻ることが出来た。きっと、私の都合がつくようにとチョコが気を利かせてくれたのだと思う。最期まで本当に優しくて、いい子だった。



これから先もしまた動物を家族として迎え入れることがあったとしても、チョコはきっと特別な存在になるのだと思う。君がわたしのいちばん。これからも一番大好きだよ。彼女がいなくなってもう4年が経つ。今でも思い出して泣いてしまう時がある。いつまでもメソメソしないで、と思われているだろうけれど、本当はいつも会いたい。もう一度会いたい。

きっと叶うことはないけれど、私はいつまでもあなたのことを想っているからね。だいすきだよ。


この歌を聴きながらチョコのことを思い出して、そしたら涙が溢れていた。夢の中でもいいから会いたい。





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