【戯曲】山田という名の死神①
□ 登場人物
○ 男
商社で働く54歳男。家庭を省みず、仕事一筋で傲慢な態度をとっていたため、15年前に妻と娘に逃げられる。その5年後にはその妻が病死。娘とはそれ以来会っていない。それからは全てを忘れるかのように仕事に没頭、部下からも鬼上司として恐れられている。故に趣味もなく、友人もいない。仕事関係でしか人間関係がなく、かなりの人間嫌い。関西弁を話す。
○ 山田 太郎 (死神)
突然、男の前に現れて余命1ヶ月を宣告する奇妙な男。実は男を迎えに来た死神のエージェント。当然だが、『山田 太郎』というのは偽名。男以外の人間には姿が見えない。人間界の常識を完全には理解していないところがあり、基本的にはふざけたキャラクターだが、クライアントのことを第一に考えるよき死神。
○ 娘
余命1ヶ月を宣告された男の娘。28歳。母親の死後、父親とは何年も会っていなかったため、孤独な青春時代を送ることになる。冷え切った家庭を作り、母親の病気にすら目を向けなかった父親を憎んでいる反面、父親の愛情に飢えている。自身の結婚を機に、その父親と10年ぶりの再会を果たすこととなる。
○ 洋子
男の部下。39歳、営業。男とは彼女が新人のときから同じ職場で働いてきたため、大抵の事情は知っている。離婚、元妻との死別後、仕事に打ち込み続ける上司を心配している。また、若い社員である大輔とコンビを組んで営業に励む優秀な社員。大輔に対しては厳しくも愛情を持って接している。
○ 大輔
男の部下。30歳、営業。入社以来、先輩である洋子から手ほどきを受けている。正確は至極軽く、仕事に対しての執着がないため、度々上司である男の怒りの矛先になっている。当然上司のことをよく思っていない。女好き。
○ 由美
男が一年がかりで取り組んでいる大型顧客の社長秘書。32歳。バリバリと働いてはいるが孤独で、仕事だけの生活に疲れきっている。そんな彼女の前に死神のエージェントが現れる。
○ ロザリー
山田を監視に来た死神監査局のエージェント(通称『マル死』のロザリー)。監査局員の中でも特に規則に厳しく、処罰された死神は数知れず。目をつけられたら最後、上からの評価が下がることは必至である。いつも『○死』と書かれた黒いファイルを持ち歩いている。
○ カレン
男の取引先の秘書である由美を迎えに来た死神のエージェント。死神としての経歴は山田よりも長く、請け負ったクライアントを容赦なく、最短時間であの世に連れて行く死神界の大御所。任務遂行を第一とし、そのためには手段を選ばない。性格はサバサバしている。
■開幕
□シーンⅠ [N・男・山田] (10分) ※ 各シーンの[ ]内は出演するキャラクター名(登板順)
路上。
N(ナレーション)、舞台面中央で板付き。
薄明かり。N、『○に死』と書かれたファイルを見ている。
N 「(観客に向かって)あ、どうも。いや、人間の一生というものは長いようで短いものです。この前結婚して子供ができたと思ったらその子供も成人してしまい、なんてことはよくあることです。……もし、今、あなたが余命1ヶ月を宣告されたらどうしますか?あなたならその1ヶ月をどう過ごすでしょうか?」
男登場。何やら携帯で誰かと連絡を取っている。
N 「さて、あちらにいるあの男性。彼が今回のクライアントです。これまで家庭も顧みず仕事一筋でここまで来ましたが、残念ながら余命1ヶ月となってしまいました。彼はどのように残りの日々を過ごすのでしょうか。それでは」
N、一例してハケ
明転
山田、男とは反対の方から登場。
男、電話していたが携帯のバッテリが切れる。
男 「あ、あれ?くそ!バッテリ切れや!」
男に近づいてくる山田。
山田 「ちょっとお時間よろしいですか?」
男 「何やあんたは。こっちは忙しいんや!」
山田 「おっと。これもらってくれませんか?」
山田、男にバラを差し出す。
男 「(チラッと見て)何やそれ? 渡す相手間違うとるやろ?そこどいてくれや」
山田 「そうはいかないんですよー。これ、あなたのものですから」
男 「いらんいらん」
男、山田の差し出すバラを手で払って行ってしまう。
山田 「ちょっとー! あなた、あと1ヶ月くらいでぽっくり逝くんですよー!」
男、立ち止まったまま静止。
山田 「お、止まった……今だ!(大声で)あなた死ぬんですよー!」
男 「(突然きびすを返してくる。)ああ~。何やて!?」
山田 「(大げさに飛んで)おわっと」
男 「いい加減なこと言うとると警察呼ぶで、こら!」
山田 「まぁまぁまぁ……」
男 「おれが1ヶ月後に死ぬ?言っていいことと悪いことがあんねんで。そこわかっとるんやろな」
山田 「まぁ聞いて下さいよ、このバラなんですがね……」
男 あきれた感じで見ている。
山田スタスタと舞台中央面へ。
山田 「(銀のバラを差し出して)これは、あんさんの命!この花びら、全部散ったら、おまんは死ぬがぜよ!!(バッチリ決める)」
男、山田の顔を見る。
山田も男を見る。
男 「(山田を指差し)わはははははは!」
山田 「(男を指差し)わはははははは!」
二人、ひとしきり大笑いする。
男 「(男のやや後ろから山田をどつく)お前はどこのどいつやねん!」
山田 「何するんですか」
男 「……アホらしい。お前みたいなのにつきあってられるかいな!」
男、スタスタと行ってしまう。慌てて山田が土下座で回りこむ。
山田 「(体制を整えて)……で、でも、あと1ヶ月であなた死ぬんですって!ほんとです!信じて下さい!」
男 「・・・そこまで言うんやったら・・・信じる・・・わけないやろ!コラ!」
男、山田に殴りかかろうとする
山田 「(手でふさぎながら)ひぃぃ!暴力反対ぃ~!」
男 「(殴りかかろうとして山田からバラを奪う)そもそも何でバラなんや?どっかの子供向けの絵本やあるまいし。普通ろうそくとかやろ」
山田 「おっと。そっちの方が好みでしたか。最近の人はあれはださいとか、おどろおどろしいって文句言うから、バラにしたんですけど。あ、バラが嫌ならこんなのもありますよ」
山田、携帯を取り出す。
山田 「携帯電話」
男 「携帯?」
山田 「そう。バッテリがなくなったら、お陀仏!(手を併せながら)ナマンダブナマンダブ」
男 「もうええわ!ちょうどよかった。それでお客さんに電話かけるわ」
男、山田から携帯を奪い、電話をかけ始める。
山田 「(おろおろしながら)あぁああ、それ……」
男 「あ、どうも。すみません、先ほどは。さっきの件ですけど、ええ、予定通りに。例の資料をお持ちしますね。ええ。で、今日の・・・」
山田 「その携帯使うとバッテリが減って寿命縮まるんでしたわ……」
男、青ざめて、慌てて携帯を男に返す。
男 「お前は……」
山田携帯をポケットにしまい、バラを取り出す。
山田 「でも、一日二日減ってもさほど変わらないですって。(満面の笑みで)ネバマインラー!」
男 「ふ・ざ・け・る・な!」
男、山田につかみかかる。
その拍子に花びらが一枚落ちてしまう。
山田 「あわわわわ、一枚落ちゃった……また寿命が……」
男 「落ちちゃったじゃない!何やねん。お前!」
山田 「まぁまぁ安心して下さい。こうやってこうやると……」
山田、落ちた花びらをくっつけようとするが、やはり落ちる。
何度か繰り返すもやはりダメ。満面の笑みで
山田 「オ、オケラー!ネバマイン!」
山田のクビを締める男
山田 「(クビを抑えながら)うげげげー。ギブアップギブアップ!」
男が手を離すと、山田がその場に崩れる。
山田 「ゴホゴホ!(襟を整え)ま、ま、とにかく。悔いの残らないよう残りの1ヶ月過ごして下さいよ。それじゃ、また!」
山田、男にバラを強引に手渡し、『ほんと乱暴な人だな』とか言いながらそそくさとはける
男、あきれた感じで山田を目で追い、銀のバラを見つめる。
男 「何やねん、あいつ!おれが死ぬ?はっ!そんなバカな話があるか!」
投げ捨てようとするも、捨てきれない男
いらいらしながらはける
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