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Random Walk

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2024年2月の記事一覧

【ショートショート】ダンジョンの奥深く

【ショートショート】ダンジョンの奥深く

勇者の僕が率いる冒険者パーティーは凶悪なモンスターが暴れまわる洞窟の奥深くまで冒険を進めていた。
ここまで地下深くなってくると、出て来るモンスターも強力なものになり、いままでの武器が通用しなくなってくることも出てきた。ミミックが出て来る宝箱を上手く避けながら、新しい武器を手に入れなければならない。それにトラップにも注意が必要だ。あの手この手で仕掛けてくる。

突然、洞窟の天井が崩れ落ちてきた。

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【ショートショート】私の彼は

【ショートショート】私の彼は

「ええっと、砂糖に、カカオバター、ミルクパウダー、カカオリキュール、レシチン、バニラと。バランスはどうしようかな。砂糖の値を増やしすぎないように気を付けないと」
 教室の隅でデバイスをいじりながらアカリがなにやら呟いている。
「なにさっきからブツブツ呪文みたいに唱えてるの」
「んー? なにってバレンタインのチョコを作ってるの」
「作ってる? レシピを検索しているんじゃなくて?」
 アカリがしている

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【短編小説】LOVE POTION NO.9(後編)

【短編小説】LOVE POTION NO.9(後編)

先を行くお兄さんに気づかれないように、私は美春にこっそりと尋ねる。

「そもそもあの人なんなの?」
「お店の人なんだけど、なんて言えばいいのかな、古道具屋さん?」

……古道具屋さん? 古道具屋さんがいったいなんでチョコレートなんて取り扱っているのだろうか。
先を行くお兄さんはまるでウィンドウショッピングを愉しむかのように飄々と町を歩いて行く。どれだけ歩いただろうか、いつの間にか私達は駅前の裏路地

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【短編小説】LOVE POTION NO.9(前編)

【短編小説】LOVE POTION NO.9(前編)

きっと、バレンタインのせいだ。

二月になると教室の空気がなんだかそわそわしてくる。他愛ないおしゃべりだったり、視線を交わす仕草にもなんとなく緊張感が漂っているみたいに感じる。

でも、私は正直に言うとみんながなんでそんなにバレンタインに必死になっているのかが分からないのだ。同級生の男子がなんだか子供のように思えてしまって、よっぽど仲の良い女友達と話している方が楽しいと思うんだけど、みんなはそうじ

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【ショートショート】お目当ての行列

【ショートショート】お目当ての行列

「ほれ、できたぞ助手ちゃん。これが行列のできるリモコンじゃ」
「ありがとうございます、博士。相変わらず発明の才能だけはあるんですね」
「ほっほっほ、褒めるでない」
嬉しそうに笑う博士。助手ちゃんはジト目で博士を見つめる。
「……ちなみにこれ、どんな原理なんですか」
「ふむ、よくぞ聞いてくれた。このリモコンからは人間の可聴域からは外れた特殊な周波数の電波が放出されていてな。これが周囲の人間を惹きつけ

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【ショートショート】ツノで刺される

【ショートショート】ツノで刺される

「ツノがある東館で人が刺されたらしいよ。怖いねぇ」
 夕飯の席で母親にそう言われて私は思わず箸を持つ手が止まる。
「えっ? 人が刺されたの」
 そう聞き返しつつも頭の中は疑問で一杯だった。
(は? え? ツノがある東館って何? 人が刺された? え、それってそのツノで刺されたってこと? 動くってことなの?)
 戸惑う私の様子に気がついていないのか、母親はのんびりとした様子で答えてくる。
「そうそう。

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