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【ショートショート】私の彼は

「ええっと、砂糖に、カカオバター、ミルクパウダー、カカオリキュール、レシチン、バニラと。バランスはどうしようかな。砂糖の値を増やしすぎないように気を付けないと」
 教室の隅でデバイスをいじりながらアカリがなにやら呟いている。
「なにさっきからブツブツ呪文みたいに唱えてるの」
「んー? なにってバレンタインのチョコを作ってるの」
「作ってる? レシピを検索しているんじゃなくて?」
 アカリがしているのはさっきからデバイスをいじっているだけで、チョコを刻む包丁も湯煎する鍋もここにはない。
「そうだよ。私が作っているのはデジタルのチョコレートだから。パラメータを調整すれば電子空間上でそれを再現してくれるんだよ。ほら、この味見用デバイスを咥えればどんな味かもわかるんだから」
「それは凄いけどさ、そのデジタルのチョコレートをどうするのよ」
「もちろんプレゼントするんだよ。言ってなかったっけ? 私の彼はデジタルヒューマン人権が認められたAIなんだよ」
そう言ってアカリが差し出したデバイスの中では、ドットで構成された男の子がデジタルのチョコレートを受け取って嬉しそうに微笑んでいた。



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