木呂

「むかしむかし」という万能枕詞にとりつかれた創作(文章)好き。 自分の昔話から、他人の…

木呂

「むかしむかし」という万能枕詞にとりつかれた創作(文章)好き。 自分の昔話から、他人の(日本)昔話まで好き勝手に書く予定。ほとんどフィクション。

最近の記事

かぐや姫は地球に行きたい 2ー6

 盗みに入っていた竹林の所有者が口にしたその名前が、大変気に入ったおじいさんは、自称月の者だという竹林所有者を名付け親とし、竹子の名をかぐやと改めた。そして、名付け親同席の元、三日三晩の宴を設け、ご近所さんからお偉いさんまで多くの人に触れ回って招き続けた。  そんなことをしていたので、当然かぐや姫の存在は都中に知れ渡り、その美貌も相まって人が人を呼び、家の周りは常に野次馬で溢れかえるほど。  おじいさんは集まった野次馬に、かぐや姫の手料理や繕いものを公式グッズとして売り出し

    • かぐや姫は地球に行きたい 2-5

      「誰」 「ほら、例の竹林の所有者じゃよ」  そんな会話は聞こえなかったはずだが、おじいさんとおばあさんは頷き合うと、飛び上がるように竹子と男の間に入り、立ち塞がる。 「何用でございましょうか?」 「お前に姫と呼ばせる筋合いはない!」  怒気のこもった2人の声色に、男は一度眉をひそめたものの、すぐに口角を上げる。 「これまで姫様を世話していただき、誠にありがとうございます。姫様の身は預からせていただきます」  男の言葉に今度はおじいさんが眉根を寄せる。 「なーにを、

      • かぐや姫は地球に行きたい 2-4

         すっかり大きくなった竹子は、おばあさんはもちろん、おじいさんにとって宝のような存在となり、おじいさんは竹子と片時も離れたくはなかった。そのため、竹とりの仕事にもちょくちょく竹子を連れて行っていた。 「ほら、竹子。今日も光ってるじゃろ? お前はここの竹から出てきたんじゃよ」  おじいさんは竹子が生まれた竹林(人の土地)で、今日も今日とて光っている竹を切り倒そうとナタを取り出す。 「この付近の竹は、常ならぬものを生み出すということでしょうか?」 「ある時は竹子。ある時は着

        • かぐや姫は地球に行きたい 2-3

           さて、竹子を連れ帰ってきたものの、いざ世話をするとなるとどうしたものかと、おばあさんは頭を悩ませていた。  今ここで用意できるのは重湯くらいで、乳を飲ませるにはどこからかもらってくるしかない。しかし、人の形はしていれど竹から生まれた赤子が、他の赤子と同じ世話でいいとも思えない。  腕に抱く竹子の肌は、ふっくらと艶やかでありながらも、月のように白く輝いていて、「ほら、よその子とは違うんだに」と、おばあさんは呟く。 「となり村の桃の子は、一体何を食べさせているんでしょうか」

        かぐや姫は地球に行きたい 2ー6

          かぐや姫は地球に行きたい2ー2

           視界が晴れた頃、おじいさんとおばあさんの目の前にあったのは、フタ付きケースのようにパカリと開いた竹筒だった。そしてちょうど中程に、鮮やかな装束をまとった3寸ほどの女の子が、竹にはまって寝息を立てている。 「ば、ばあさん。ばあさんや! 見ろ!」 「え……本当に?」 「ばあさん、わしらの子じゃよ。子のいないわしらに、ついに授けられたんじゃよぉっ!」  竹に駆け寄ったおじいさんは、小さな女の子をその竹ごと抱え上げて嬉しそうに目を細める。 「これまで、子が出てくるかもと、いく

          かぐや姫は地球に行きたい2ー2

          むかしむかし、病気になった〜⑮人生色々

          入院8日目。退院前日。 冬生まれの私は二十歳の誕生日を迎えた。 友人からのおめでとLINEに、 「手術しました。入院なう」と軽く返せば、 「え、え、マジか、どした」と、めでたさ吹き飛ばして心配してくれた。 「元気?」とか「変わりない?」とか、相手が肯定してくれる前提で、挨拶みたいに使っていたことを反省する。 久しぶりに連絡取ってみたら、元気じゃないとか、変わりがあるとかいう可能性は大いにあるのに。 成人式は二十歳だった私の頃。 もうすぐ成人式だった。 成人式は当たり前

          むかしむかし、病気になった〜⑮人生色々

          むかしむかし、病気になった〜⑭父親ってさ

          入院中から溜め込んでいる父親への愚痴につき、チクチク言葉に注意。(私の父とかは)見ない方がいい。 酔ったような気持ち悪さに悩まされている最中に、コーヒーとタバコの匂いを纏って見舞いに現れる父が苦手だ。 食欲もさしてないのに、さほど好きではないシュークリームを持って現れた父が苦手だ。 確かに、生クリームはそのまま吸えるほど好きではあるが、コンビニのシュークリームのシュー皮はあまり好きではない。その微妙な好みを把握していない。 なのにそれを、娘の好みを分かっている然として買っ

          むかしむかし、病気になった〜⑭父親ってさ

          むかしむかし、病気になった〜⑬術後にまつわるエトセトラ

          体中に繋がれた管で、外れて最も嬉しかったのは、やはり尿道カテーテル。 無意識下で、一体どうやって入れたんだと想像恥ずかしがりをしつつも、意識のある状態で抜かれるのも、なかなかに恥ずかしい経験。 ……のはずだが、痛みと気持ち悪さで虚無にあった当時の私には、一切の抵抗感を覚えず、されるがままだった。 そういえば、ふんどしみたいなT字帯を付けることも、購入時はあんなに恥ずかしかったのに、付けられているのを見ても何とも思わない。 「縫う」という言葉が想像以上にしっくりくる腹の縫い

          むかしむかし、病気になった〜⑬術後にまつわるエトセトラ

          むかしむかし、病気になった〜⑫体の中心が痛いと何も叫べない

          「今、10段階でどのくらい痛いですか?」 術後の面倒を見てくれている看護師さんが、不意にそう聞いてきた。 この時は知らなかったのだが、医療の世界には10段階で痛みの強さを評価するというものがあるらしい。 だが、そんなこと微塵も知らない当時の私は、看護師さんのその質問は「ねえ私の料理、何点?」とかいう質問とほぼ同義に聞こえた。 「そんなん10どころか、100、1万、億とっくに突き抜けてますに決まっとるやろ!?」 と言いたいが、10段階で聞かれているのに、もっともっと「無

          むかしむかし、病気になった〜⑫体の中心が痛いと何も叫べない

          むかしむかし、病気になった〜⑪まだ麻酔の話

          手術台の上。 にっちもさっちも腕に針が刺さらない私は、少し遠くから聞こえた指示で吸入型の麻酔に変更となった。 「匂い、○○味と○○味、どっちがいい?」というようなことを聞かれた気はするのだが、何味があったのかも自分が何を選んだのかも覚えがない。 マスクがはめられ軽く息をした瞬間、私の脳裏に蘇った記憶は、小学校の火災避難訓練。 その年の避難訓練はやたらと力が入っていて、煙の充満したテントの中を(わざわざ)通り抜け(させられ)て逃げた、あの時の煙の匂い! 激つよのプリンみた

          むかしむかし、病気になった〜⑪まだ麻酔の話

          むかしむかし、病気になった〜⑩恥の多い1日を送ってきました。

          睡眠薬をもらって寝付きは早かったものの、ピッタリ4時間で薬は切れた。 その後、腹痛に襲われる。 ナースコールするか悩んだものの、明日手術すれば治るんだし、今はどうしようもできんだろと我慢して眠れない愚か者。 見回りに来たら声をかけてみようかと待ち構えていたのだが、見回りで覗かれるのは、ほんの一瞬だった。 カーテンが動く音に、起き上がってガン飛ばした時には、もうそこには誰もいなかった。 ……何やってんだか。 なんとか朝になり、おはよう浣腸をされる(2度目ともなれば恥には慣れ

          むかしむかし、病気になった〜⑩恥の多い1日を送ってきました。

          むかしむかし、病気になった〜⑨百聞は実体験にしかず。

          初めての入院。初めての手術。 病室の窓からは、観覧車が小さく見え、病気女子の設定なら妄想が滾りまくるシチュエーション。 「いつか、あの観覧車に一緒に乗ろう?」 残念ながらそんな約束をした人はいないし、残念ながら続きは妄想でさえ思いつかなかった。 こちらとしては大真面目なのですが、内容は下のことメインです。 なにもかもが目新しく、「こんなの初めて」の連続。 課金して個室を取ったものの、1泊目は大部屋だったので、できるだけ騒がないようにはしていたが、カーテンの中では静かに

          むかしむかし、病気になった〜⑨百聞は実体験にしかず。

          むかしむかし、病気になった〜⑧「これはフィクションです」と言われても

          両卵巣嚢腫摘出手術(約10cm開腹)が人生で一番痛かった話。誰かを責めたいわけでも、手術前の人をビビらせたいわけでもなく、あくまで個人の体験に基づく感想です。医療ものは大好きです。 記録によると、手術の前日、14時に入院したらしい。 それから身体測定をされ、入れ替わり立ち代わり、説明を受けたことを覚えている。身長が自分の思っている高さより、小さかったことも覚えている。 なんて、時系列で進めようかと思ったが、この入院・手術の話で、最も言いたいことを、もうさっさと言ってしまい

          むかしむかし、病気になった〜⑧「これはフィクションです」と言われても

          むかしむかし、病気になった〜⑦好きをするにも体力がいる。

          病気の話は全然してません。ただただ好きなものについての話。 車で1時間弱かかる入院先の近くには、水族館があった。 というわけで、私と母はその水族館の年パスを購入。 病院に行く度に、水族館にも寄って、ベンチに座ってしばらく魚を眺めて過ごした。その後、大抵スシローに寄って、小腹を満たして帰った。 その頃、どれほど「病院・水族館・スシローお出かけパック」を利用していたかは、スシローのアプリのランクが大トロランクになり、憧れの特製皿をいただいたことから分かる。 ざっと20貫分は

          むかしむかし、病気になった〜⑦好きをするにも体力がいる。

          むかしむかし、病気になった〜⑥強気なビビり

          流血表現あります(採血の話)。ご注意ください。 手術が決定する前だけでなく、決まってからもいろんな検査をした。 1日かけて、病院中を用紙持って、部屋から部屋へ。番号から別の番号へ。 まるで、オリエンテーリングか、ウォーキングラリーをしているような気分。もちろん、そんな楽しいものじゃないけれど、これまで大きな病気などしてこなかった私には初めてのことばかりで、ワクワクドキドキ。 むかしむかしに、テレビドラマかコントかで見たことがある、ステンレスの寸胴鍋みたいな肺活量を測る機械

          むかしむかし、病気になった〜⑥強気なビビり

          むかしむかし、病気になった〜⑤おいしい断面の作り方。

          MRIに予備知識と覚悟ゼロで行ったら、度肝抜かれた話です。あくまで個人的な感想(主にEテレのお菓子作り番組の話)なので、なんの参考にもなりません。 時系列的には、大きめの病院に行き始めた頃。 まずは、永久使用の診察券を作った。 落とすと滑るようにどこかに行ってしまう、町医者の診察券のペラペラプラスチックとは違って、分厚くて丈夫で、落とすとカランカランと音を出す、カチカチプラスチックの診察券。こりゃあ、永久使用だわな。 恐らく2回目に病院に行った時、人生初のMRIを経験し

          むかしむかし、病気になった〜⑤おいしい断面の作り方。