木呂

「むかしむかし」という万能枕詞にとりつかれた創作(文章)好き。 自分の昔話から、他人の…

木呂

「むかしむかし」という万能枕詞にとりつかれた創作(文章)好き。 自分の昔話から、他人の(日本)昔話まで好き勝手に書く予定。ほとんどフィクション。

最近の記事

かぐや姫は地球に行きたい 3-1

 長い髪を振り乱し、四足歩行の怪物と見間違える様で籠から這いずるように出てきたその姿。人目を気にすることなく、従者の持つタライにダバダバと胃の内容物を吐き出し続けるその娘の姿に、さすがに月の王は可哀想に思った。 「どうせ睡眠薬でも飲んで、帰り道も罰になると期待してはいなかったのだが……調薬の記憶は戻らなかったのかい?」  声をかければ、彼女は口元を手で拭いながら振り返る。口端からヨダレをこぼしつつもどこか勝気なその顔を見て、ようやく王は自分の娘が帰ってきたことを実感した。

    • かぐや姫は地球に行きたい 2-17

       酔っぱらいなのか泣き腫らしたのか、うーうーと低い声で唸りながら、いじけたように膝を抱えて座っているおじいさん。その目の前に2つの茶碗が、ドンッと音を立てて置かれる。 「さ、飲みますよ」  茶碗を持ってきたおばあさんは、おじいさんの向かいに座ると、茶碗のそばに怪しげな2つの薬包を添えた。それを見たおじいさんは、驚いたように目を開き、食い気味でその薬を手に取る。 「てっきり捨てたのかと。ばあさんがかぐやの作った薬は嫌だと突っぱねたんじゃないか」 「おじいさんだって、もっと

      • かぐや姫は地球に行きたい 2-16

         縁側に立ち、空を見上げる姫の美しい髪が夜風に流れる。  夜とはいえ、随分と明るい今夜は満月。とうとう、月から迎えが来る夜だった。  物憂げな目をしていた姫だったが、庭から聞こえてくる喧騒には、眉をひそめずにはいられない。別れを告げて以降、おじいさんがご近所中に「嫌じゃ嫌じゃ」と、言いふらして泣きわめいたせいで、かぐや姫を帰してなるものかと、一時の求婚ブームほどの人が庭に集まっていた。ついにはそれが帝にまで伝わり、「嫌じゃ嫌じゃ」と、兵たちまでもが遣わされている。  それ

        • かぐや姫は地球に行きたい 2-15

           穏やかな日々だった。  おじいさんは竹をとってきては加工し、おばあさんは家事をこなしながらの体力作り。姫も筋トレや薬草採取、調薬に励み、時たま帝から来た手紙への返事。3人でお弁当を持って山を駆け回ったり、アクロバティックに喧嘩などを嗜んだりもした。  あまりに充実した毎日に、最近めっきり姿を見せなくなった元月の者の存在を、思い出していたはずなのに忘れていた姫。  それは突然だった。 「姫様! 大変です!」  当然のようにいきなり現れ、そう叫んだのは元月の画家の男。  

        かぐや姫は地球に行きたい 3-1

          かぐや姫は地球に行きたい 2-14

           「いくつか聞きたいことがあるのだけれど」  お茶を飲みながらゆったりと聞いてくるおばあさんに、姫はおじいさんを介抱する手を止め「はい、なんでも」と、答える。 「あなたの本当の齢……というより大きさはそのくらいで合ってるんです? なにぶん竹に入っていたのを私たちが勝手に大きくしたようなとこがあって……」 「ああ、これですね」  姫は手近にあった小槌型の機器を手に取る。おじいさんとおばあさんには小槌型の何かとしか分からなかったが、月の姫にとっては馴染み深いものだった。その

          かぐや姫は地球に行きたい 2-14

          かぐや姫は地球に行きたい 2-13

           遠くに聞こえる、おばあさんが包丁を使う音とおじいさんが洗濯を干す音。  朝おなじみのその音に、目を開けて身を起こした姫は、自分が久しぶりにおじいさんとおばあさんの間で寝かされていたことに気づく。布団はまだそのままだが、2人とももういない。  姫は立ち上がると、両足を交互に持ち上げ足踏みをした。大きく伸びをし、今度は屈伸をする。 「私、地球にいるんだ」  面白い読み物に溢れ、恋い焦がれた地球に。苦しみの地と呼ばれていた地球に。重力が6倍で筋トレにはうってつけの地球に。

          かぐや姫は地球に行きたい 2-13

          かぐや姫は地球に行きたい 2-12

           戸棚に作り置きしておいた佃煮のところまで走っていき、ひと口つまんだかぐや姫は確信する。 「この味、間違いない」  その佃煮は、かぐや姫がやたらと気に入っていた苦い薬草で作ったもの。大量に作ったものの、おじいさんとおばあさんは食べないものだから、余っていたのである。 「父上、母上、大変です!」  器ごと佃煮を持って、寝所にいるおじいさんとおばあさんの元に駆け込み、2人を揺り起こす。 「ちょっと……。一体、何事ですか」  目を擦りながら身を起こしたのはおばあさんだけ

          かぐや姫は地球に行きたい 2-12

          かぐや姫は地球に行きたい 2-11

           「ジル君だ。大きくなったら、彼と結婚して、共に国を治めていくんだよ」 「いく久しく、よろしくお願いします」  目の前にいるのは、無表情で片膝をついた男の子。  父親に婚約者として引き合わされたのは、あまり笑わない男の子だった。話していても、おどけてみせても、無理して作ったような笑みを浮かべるだけで、心から笑ってくれたことは一度ない。友達にもなれていない。ただ、婚約者として、時々会いに来て、一緒にいるだけ。 「ねえ、私のこと好き?」  痺れを切らしてそう聞けば、ジルは数

          かぐや姫は地球に行きたい 2-11

          かぐや姫は地球に行きたい 2-10

           帝のかぐや姫ご所望宣言に、「はは、無理」と、乾いた笑いと共に拒否するかぐや姫、「それはなりません」と、いつもタイミング良く突然に出現する竹林所有者兼名付け親の元月の男、「わしに用はないんかい」と、めそめそ泣くお尋ね者のおじいさん。  かぐや姫を力づくで連れていこうとする帝の従者たちも、わらわら家に入ってきて、面倒なことになりそうな今後の展開に、おばあさんはせめて家が無事であれと願わずにはいられなかった。 「私を連れて行きたくば、捕まえてご覧なさい」  不敵に笑うかぐや姫

          かぐや姫は地球に行きたい 2-10

          かぐや姫は地球に行きたい 2-9

           最後に拝謁したのは帝が十になる前だったので、その頃よりはるかに成長した姿に、おばあさんは目を細めた。先帝の崩御の間際に誕生したこの男子は、先帝の忘れ形見として異常なまでに大切に育てられ、その一端をおばあさんも担っていた。 「内裏が日々穏やかなのは、そなたのおかげだと、いつも母が申していてな」  板の間にもかかわらず、足を投げ出してくつろぐ帝の横、正座をして控えているおじいさんとおばあさん。もちろん、部屋を整えようとしたのだが、帝がそれを待たず、勝手に座り込んで、勝手に思

          かぐや姫は地球に行きたい 2-9

          かぐや姫は地球に行きたい 2ー8

           「で、どうして、人が減っていないんですか?」  鬼の形相で立つおばあさんの下、雷を怖がる子どものように身を縮こまらせたおじいさんが、正座で頭を垂れていた。 「わしと、力比べをしたいとな……指南してくれと言われたり……」 「あなたが目立ってどうするんですか!?」 「ごもっとも……」  これ以上小さくなりようがないくらい、萎縮するおじいさん。家の外からは「師匠! お目通りを!」などと野太い声が聞こえてくる。  依然として、この家は大勢の人に取り囲まれ、自由に外に出ることは

          かぐや姫は地球に行きたい 2ー8

          かぐや姫は地球に行きたい 2-7

           「結婚とは、それほど重要なことなのでしょうか。皆がしなければいけないのですか?」  おばあさんとかぐや姫は、お茶を飲みながら語り合っていた。 「そうねぇ……。この世に生を受けたなら、次の命を繋ぐのも定めの1つだとは思うけれど、私たちのように子ができないこともあるから……。まあ、色恋ほど良くも悪くも心が揺れるものはないですから、なんだかんだそれが楽しいんじゃないですか?」 「楽しい……ですか。私は、父上と共に追っ手から逃げている時が1番楽しいです」  きっぱりと言い切っ

          かぐや姫は地球に行きたい 2-7

          かぐや姫は地球に行きたい 2ー6

           盗みに入っていた竹林の所有者が口にしたその名前が、大変気に入ったおじいさんは、自称月の者だという竹林所有者を名付け親とし、竹子の名をかぐやと改めた。そして、名付け親同席の元、三日三晩の宴を設け、ご近所さんからお偉いさんまで多くの人に触れ回って招き続けた。  そんなことをしていたので、当然かぐや姫の存在は都中に知れ渡り、その美貌も相まって人が人を呼び、家の周りは常に野次馬で溢れかえるほど。  おじいさんは集まった野次馬に、かぐや姫の手料理や繕いものを公式グッズとして売り出し

          かぐや姫は地球に行きたい 2ー6

          かぐや姫は地球に行きたい 2-5

          「誰」 「ほら、例の竹林の所有者じゃよ」  そんな会話は聞こえなかったはずだが、おじいさんとおばあさんは頷き合うと、飛び上がるように竹子と男の間に入り、立ち塞がる。 「何用でございましょうか?」 「お前に姫と呼ばせる筋合いはない!」  怒気のこもった2人の声色に、男は一度眉をひそめたものの、すぐに口角を上げる。 「これまで姫様を世話していただき、誠にありがとうございます。姫様の身は預からせていただきます」  男の言葉に今度はおじいさんが眉根を寄せる。 「なーにを、

          かぐや姫は地球に行きたい 2-5

          かぐや姫は地球に行きたい 2-4

           すっかり大きくなった竹子は、おばあさんはもちろん、おじいさんにとって宝のような存在となり、おじいさんは竹子と片時も離れたくはなかった。そのため、竹とりの仕事にもちょくちょく竹子を連れて行っていた。 「ほら、竹子。今日も光ってるじゃろ? お前はここの竹から出てきたんじゃよ」  おじいさんは竹子が生まれた竹林(人の土地)で、今日も今日とて光っている竹を切り倒そうとナタを取り出す。 「この付近の竹は、常ならぬものを生み出すということでしょうか?」 「ある時は竹子。ある時は着

          かぐや姫は地球に行きたい 2-4

          かぐや姫は地球に行きたい 2-3

           さて、竹子を連れ帰ってきたものの、いざ世話をするとなるとどうしたものかと、おばあさんは頭を悩ませていた。  今ここで用意できるのは重湯くらいで、乳を飲ませるにはどこからかもらってくるしかない。しかし、人の形はしていれど竹から生まれた赤子が、他の赤子と同じ世話でいいとも思えない。  腕に抱く竹子の肌は、ふっくらと艶やかでありながらも、月のように白く輝いていて、「ほら、よその子とは違うんだに」と、おばあさんは呟く。 「となり村の桃の子は、一体何を食べさせているんでしょうか」

          かぐや姫は地球に行きたい 2-3