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掌編小説【名前】

♯クリエイターフェス10/6のお題「名前の由来」

「名前」

名前は親から子への初めての贈物だ。
この子が幸せであるように…、よい人生を送れるように…。
祈りを込めてつけるものだ。

だから私はニュースで罪を犯した人間の名前を見る度に、それを付けた人のことを想い、幼い頃にその名前で呼ばれていた頃の彼らの姿を想像してしまう。
「〇〇くん」「〇〇ちゃん」と呼ばれていた頃、可愛かったであろう時の。
それはせつなく悲しい想像だ。

例えば、今テレビに映っているのは、ここ数か月テレビや新聞を賑わしていた謎の連続殺人事件の犯人。とうとう捕まったようだ。
ブルーシートで囲まれて姿は見えないけれど。
「まぁくん」「まさとちゃん」
かつては、彼もそんな風に呼ばれていたのかもしれない。

彼が可愛かった頃の姿を想像する。
私の息子がそうだったように、無邪気に笑いながら「ママ」と言って駆け寄って来たりしただろう。両親のことを想うと、さらに胸が痛む。
そして彼の名前の由来を思う。
おそらく、その名のとおりの人になってほしいと両親は願ったのだろう。
少し複雑な気持ちだが、犯人が名乗った名前が息子と同じだったのだ。
私と夫が心を込めてつけた名前、「聖人(まさと)」。

そういえば、仕事が忙しいらしく最近息子から連絡がないけれど…。

その時電話が鳴り、私はテレビを切って受話器を取った。

おわり (2022/10 作)

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