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掌編小説【横断歩道】

お題「横断歩道」

「横断歩道」

けんちゃんが遊んでいる。
けんちゃんの前を大好きな車がたくさん走っていく。びゅん、びゅん、びゅん。大きいトラックや小さい車、白いのや青いの。パトカーとか消防車とかめずらしいのが来るとけんちゃんはうれしい。最近数がかぞえられるようになったばかりだから、車の数をかぞえる。10までかぞえたらまた1からかぞえる。何度もかぞえる。たまに横断歩道を渡って反対側に行く。そこでまたかぞえる。

けんちゃんは横断歩道も好きだ。白いところだけ踏んで渡る。黒いところを踏むと深いところに落ちて死んじゃうんだ。そういうきまり。ぴょん、ぴょん、ぴょん。
時々けんちゃんは家に帰ろうかなと思う。でも帰り道がわからない。迷子になっちゃったのかもしれない。でもまぁいいか、まだお腹すいてないし。そしてまた車の数をかぞえる。いつまでもかぞえる。

けんちゃんが遊んでいる所へママがやって来た。
「あ、ママ」
けんちゃんは駆け寄った。でもママは気がつかない。ママは横断歩道の前でしゃがみ込んだ。
「横断歩道は一人で渡っちゃだめって言ったのに」
そう言って涙をこぼした。

「ママ、ごめんね」
けんちゃんは思い出した。
「ぼく、黒いところを踏んじゃったんだんだね」

おわり (2020/9 作)

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