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山桜に誘われて

三月も半ばの頃。
イースターが近づくと、
ドイツの田舎町は
一気に春めいていきます。

こぶしの花が満開の頃、
町のあちらこちらで
山桜もまた
花を開かせ始めました。

日本で桜といえば
やはりソメイヨシノでしょうか。
あんなに小さな花たちが
あたり一面を
ピンク色に染め上げるその様は
ドイツでもやはり知られていて、
一度は見てみたいものだと
仰る方にもよく出会います。

山桜の花は
ソメイヨシノに比べると
少し「さりげない」印象ですが、
家々、そして木々の間にすっと佇み
白色や薄紅色で風景を彩ってくれる
とても魅力的な存在です。

いつもの散歩道にも
この山桜が時折生えています。
お天気のいい日には、
日の光に照らされ
花弁はほのかに透けてキラキラ輝き、
そよ風にふわふわ揺れる姿が
なんとも可憐です。
香りもまた素晴らしいもので、
ついつい花のそばに顔を寄せ
深呼吸したくなってしまいます。

誘われるのは
もちろん私達人間だけではなく、
頭上を仰げば
無数の蜜蜂たちが
せっせと蜜を集めています。
彼らの足には
まん丸の花粉団子。
鳥のさえずりとともに聞こえる
忙しそうな蜂たちの羽音は、
春の訪れを歓迎する生き物たちの鼓動を
私達に伝えているようです。
次の週にはまた天気が変わる、
そう聞いていた私は
「今がチャンス。みんな頑張れ。」
心の中で声をかけました。

芽吹きの季節の町は
日々その色合いを変化させ、
桜の美しい姿も
そこへとどまることはできません。
花から花へと
移動していく蜜蜂たちのように
私達もまた、
この木の向こうに見える
次の山桜の花に導かれながら
さらに歩みを進めていきます。

このひとときの煌めきを
少しでもたくさん
目と心に焼きつけたくて。










 Illustration by Asami Kira

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