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全て、貴方のせいです。 第15話

概要

 殺人鬼の心臓を移植された水越万里菜は、自らも人殺しとなってしまい、刑務所へ収容された。そこで彼女は、誰かに宛てて手紙を書き出す。

積悪の余殃

 絶対に許さない。絶対に許さない。絶対に許さない。絶対に許さない。
 誰が生んでくれと頼んだ?
 僕は、僕を生んだ全てを恨む。
 全身に彁が刻まれたんだ。無様だろ?
 笑いたいなら笑えよ。
 この手紙を書き終わったら、僕の命は尽きる。否が応でも、役割を果たさなければならない。
 死の鳥が現れた。さっき言ってたんだよ。悪魔と契約したら27歳で死ぬって。そんなの聞いてないぞ。代償とか何だとか言いやがって。
 四の五の言ってもしょうがないのはわかってるけど… …。
 明日の誕生日が命日なんだ。死が目前に迫ってる今、笑顔なんて作れない。
 死の鳥が、僕の脳内に話を吹き込んでくる。あまつさえ、「物語を書け」と心臓が命令する。
 僕は、自分をこんな目に遭わせた全員を苦しめる。
 兎にも角にも、産まれてきた事自体が不幸だった。不幸な人間がもうこれ以上増えないように、人類を根絶やしにする。負の連鎖を止めるには、そうするしかない。
 これは、人類に対する宣戦布告だ。かつてない呪いをかけ、人類を殲滅する。
 ――そうしたかった。出来なかった。
 僕は人類全員に苦痛を与えられてきたかというとそうではなくて、僕の音楽を聴いて、共鳴してくれた人がいるのも事実。
 そういうファンと仲良くなりたい。お友達になりたいと思える。まだ、人を信じられる。いや、信じていたい。だから、お友達になれるか否かをふるいにかけ、選ばれし人間だけを生かす事にした。
 その為に、かつて存在した髑髏教について教える。理解できる奴だけが着いてこればいい。
 真髄はこうだ。
 言葉が世界を作っている。神ですら人が作った。何故なら、認識される事によって存在するからだ。神は信仰される事で、力を持つ。つまり、邪神を存在させているのは他でもない、お前なんだよ。
 さあ、僕をこう呼べ。
 ――「彁」ってな。
 究極の神を表す漢字。神が持つ真の名。本当の神に、呼び名は無い。
 名前っていうのは最強の言霊だ。その人の強い念が籠ってる。
 また、古くから、死神は世界各地で様々な呼び方をされてきた。
 イザナミ、無常、サリエル、ヤマ。村の奴らは髑髏神や髑髏本尊なんて呼んだか。数えだしたらキリがないし、どれも重要ではない。
 死神であって、死神でない。神の一部であって、全部ではない。
 もっと想像するんだ。
 僕は何を語り、何を語らなかったか。
 考えてみろ。
 二元論を超越した境地こそ悟りだ。
 髑髏神には、相反する二つの要素がある。
 知られれば知られる程に、強大な厄災となる。認識した全ての人物に地獄を見せる。
 僕の心臓である虚栗は、殺人と執筆の衝動を抱えている。書く文字には言霊が宿り、読む者を呪殺する。このようにして、読者を増やしては減らす。
 対象は、お前も例外ではない。
 僕はこれから、お前が人生で一番幸福な時に、今までにない不幸をお見舞いする。
 その前に一つ言っておく。火には気を付けろ。炎は本来の姿を取り戻すからな。
 地球を地獄の業火で焼き尽くす事により、最終的には神を知る者はいなくなって、神は死ぬ。これで邪神はいなくなり、世界は終わるんだ。
 恐れ慄け。死は平等に訪れる。僕もお前も、残された事はもう、現実を受け入れるしかない。
 解るか?
 燃やされてしまえば、人類みな骸骨なのさ。
 この話を読んだ全ての読者は人身御供となり、彁の一部として取り込まれる。
 体に『彁』の刻印が現れたなら、選ばれたという事だ。
 死ぬまで、お前の脳裏にこびり付く。幸福の絶頂から、奈落の底に突き落とされる、その日まで。
 そして、悟るだろう。人の数だけ世界が在る事を。
 お前が認識しているのは事実であって、真実ではない。真理とは受け入れ難いものだ。
 ここでお前にひとつ、質問をしよう。
 本当に善の神が在るのなら、戦争や犯罪が数え切れないほど起きているのは、何故だと思う?
 神が善の存在なら、虐待されて死ぬ子供なんていないはずじゃないか。産まれた時から不幸な運命を背負っている。そんな惨劇を知ったら、お前だって胸が苦しくなるだろう?
 こんな世の中、間違ってる。そう思わないかい?
 紛れもない事実は、余りにも残酷だ。綺麗事なんて、嘘だから美しい。
 多くの人々が思い描いているような、願い事を叶えてくれる優しい神なんて実在しない。
 僕は知った。この世を支配しているのは死神である、と。
 世の摂理は地獄だ。誰かが幸福になる時、裏では誰かが不幸になっている。
 今日も障害を持って産まれたが為に、過酷で劣悪な環境に置かれている人がいる。彼らの涙を、お前は想像したことあるか?
 この世に神が在るなら、度を超えた無惨で、目も当てられない無慈悲だと思わないか?
 つまり、本当は善神なんていない。この世を支配しているのは邪神だ。その計り知れない強大な力に、人々は抗えない。
 この現状に、思った。もう虐げられたくない、と。僕は邪神に歯向かうくらいなら、そちら側に立つんだと決意した。
 宿命に逆らわない。もう災難な人生は御免だ。幸福を手に入れる為に、他人を不幸に陥れてやる。
 傷付けられる日々なんてうんざりだ。僕は幸せになりたいだけなのに、いつも人々は苦しめる。
 ――恨めしい。
 僕は幸せになりたい。その為にこの身を捧げ、神の一部となり、幸福を享受する。
 本当は死にたくないさ。でもな、生きてたって幸せになれない。そういう人間がいるのは事実なんだよ。
 僕がそう。だから至福を得る為に、肉体を捨て、神に成る。
 神様になって信者ができたらさ、その人達はお友達になってくれるのかな?
 皆、僕と同じになっちゃえばいいんだ。そうすれば、仲良くしてくれるでしょ?
 決めた。獄中から送るこの手紙を、死の鳥が刻印を持つ者へ届ける。
 お前にやってもらいたい事はただ一つ。呪いの拡散だ。一人でも多くの人間にこの話を読ませろ。
 僕の言霊を受け取った人間には、彁の字が刻まれる。
 僕のお友達を増やす手伝いをしてほしい。
 もし役割を果たすなら、お前を不幸から解放してやろう。
 拒絶しようものなら、お前を絶対に許さない。

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