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読書紹介62「下町ロケット2 ガウディ計画」

あらすじ
直木賞受賞作に待望の続編登場!
その部品があるから救われる命がある。
ロケットから人体へ――。佃製作所の新たな挑戦!
ロケットエンジンのバルブシステムの開発により、倒産の危機を切り抜けてから数年――。大田区の町工場・佃製作所は、またしてもピンチに陥っていた。量産を約束したはずの取引は試作品段階で打ち切られ、ロケットエンジンの開発では、NASA出身の社長が率いるライバル企業とのコンペの話が持ち上がる。そんな時、社長・佃航平の元にかつての部下から、ある医療機器の開発依頼が持ち込まれた。
「ガウディ」と呼ばれるその医療機器が完成すれば、多くの心臓病患者を救うことができるという。
しかし、実用化まで長い時間と多大なコストを要する医療機器の開発は、中小企業である佃製作所にとってあまりにもリスクが大きい。苦悩の末に佃が出した決断は・・・・・・。
医療界に蔓延る様々な問題点や、地位や名誉に群がる者たちの妨害が立ち塞がるなか、佃製作所の新たな挑戦が始まった。

感想など


➀概要・あらすじ

 もう7,8年前になりますが、阿部寛さん主演でドラマ化もされました。
 ドラマの方は、話の流れは同じでも、見せ場や活躍する人物など随分と演出がなされていました。特に、1話ずつに2つの対立場面を描いて~例えば、裁判、会社の会議、人間関係の葛藤、「正義、主役」側が勝つ、よくなることで、見ている人のカタルシスがありました。

 今回の「ガウディ計画」編は、ドラマの後半部分になります。
 ロケットエンジンづくりの技術を生かして、「人工心臓」「人工弁」などの開発への夢を追う内容でした。

②医者とは何なのか、医療とはどうあるべきか


医者という仕事の特殊性も感じました。悪役ではありましたが、世良公則さん演じる貴船教授の言葉は強烈です。

・みんな医療に何を求めているんだ。未来永劫の命か。そんなものはないんだよ。完全無欠の医療技術か。そんなものもない。医療と言うのはどこまでいっても、失敗による経験の蓄積、仮説と実証の繰り返しなんだ。失敗を責めたら、医療は進化しない。大病院だからけしからんと、ジャーナリストが正義を振りかざしているつもりかは知らんが、それで医療が進歩するか?そんなのは、長い目で見れば、自分の首を自分で絞めているようなものじゃないか。このジャーナリストが書いた記事を読んで病院がけしからんという奴らが将来心臓病になったとき、世界水準から周回遅れの技術でしか手術できないといわれて。それを受け入れる覚悟があるのか。

・とんでもない失敗をしながら、術もないのに、何とかすると安請け合いをする。そんなのが通用するのはな、あんたたちみたいな、なあなあの世界で生きている連中だけなんだよ。我々医者は、失敗したら人が死ぬんだ。死んだ人間が生き返るか。時間を貰えば、生き返らせられるのか。 

 自分は病気になって地域の町医者の所へ行くことがほとんどなので、内部事情などは知りません。
 「白い巨塔」のようなドラマで勝手にイメージするのみです。
 でも、お医者さんも人であり、病院もある意味「経営」がなされる会社みたいなものなので、ドラマに出てきたような複雑な人間関係や「暗部」があっても不思議ではないなあと思いました。

・白い巨塔と呼ばれる所以さ。ここでは力のあるものが正義でありルールなんだよ。それがいやならこびへつらってでも偉くなるしかない。

・政治家みたいに根回しが得意な医者も、カネ儲けが大好きな医者も、人の命を前にしたら、なんとか助けようとする。それが医者じゃないですか?結局のところ、医学界の名声も地位も、そんなのは自己満足の飾りです。医者が医者たるは、患者と向き合った時だと思います。

③働く意味、仕事の意味について


 今回は医者側の悪役として貴船教授がいて、世良公則さんが演じていました。患者の為にと人工心臓の開発に携わっていましたが、出世や名誉に目がくらみ、医者として大切なものを見失っている姿が描かれていました。ただ、そんな姿を見ながら、自分はどうかと顧みた時、胸に迫るものがありました。
 例えば、次のような言葉がありました。

・「患者のためといいつつ、私が最優先してきたのは、いつのまにか自分のことばかりだったな。だけどな、医者は医者だ。患者と向き合い、患者と寄り添ってこそ、医者だ。地位とか利益とも関係なくなってみて思い出したよ」
 
・人の命を救う医療機器を作りたい。
 会社に就職した時の理由だったはずだ。
 だが、営業ノルマや収益目標に追い立てられるうち、いつしか自分が抱いていたはず理想は脇へ追いやられ、ひたすら収益と効率を追究するばかりの日々を過ごしてきた。
 会社が繁栄しても、心は廃れる。挙げ句、そのすたれた心に気づきもしない。これほどばかばかしく、愚かなことがあるだろうか。

 仕事でも、生活でも、目的と手段、何のためにしていたのかを見失ってしまうことは多々あります。
 
幸せになるために給料をもらっていたはずなのに、給料をもらうためなら、たとえ不幸でも、メンタルをやられても、耐えなければならないにすり替わっていることがあります。「健康の為なら死んでも構わない!」と同じで、目的が手段に乗っ取られていて、「挫折」や「大病」にでもならないと、自分では気づけないところにまで行ってしまいます。
 
 仕事の意味、何のために働き始めたのか、初めのころの夢は何かを問いかけられたようなきがしました。
 
 池井戸潤さんは、銀行員から作家になった方で、会社や銀行、金融の実情に詳しく、またそこで織りなされる人間ドラマをもとに、会社の在り方や働くことの葛藤など、様々な問題提起をされながら描いています。働くことに関する言葉の熱量も半端ないものがあります。だから、ストーリーの面白さ以上に、読んでいて引き込まれていくのだと感じました。
 

発行所   小学館
発行年月日 2015年11月10日

皆様の心にのこる一言・学びがあれば幸いです

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