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読書紹介56「下町ロケット」

あらすじ

研究者の道をあきらめ、家業の町工場、佃製作所継いだ佃航平は、製品開発で業績を伸ばしていた。そんなあるの日、商売敵の大手メーカーから理不尽な特許侵害で訴えられる。圧倒的な形勢不利の中で取引先を失い、資金繰りに窮する佃製作所。創業以来のピンチに、国産ロケットを開発する大手企業・帝国重工が、佃製作所が有するある部品の特許技術に食指を伸ばしてきた。特許を売れば窮地を脱することができる。だが、その技術には、佃の夢が詰まっていたー。男たちの矜持が激突する感動のエンターテイメント長編!第145回直木賞受賞作。

感想など

 もう7,8年前になりますが、阿部寛さん主演でドラマ化もされました。

 ドラマの方は、本と話の流れは同じでも、見せ場や活躍する人物など随分と演出がなされていました。
 特に、1話ずつに2つの対立場面を描いて~例えば、裁判、会社の会議、人間関係の葛藤、「正義、主役」側が勝つ、よくなることで、見ている人のカタルシスがありました。

 ドラマが高視聴率だったのは、もちろん、ドラマ作りの技もあるでしょうが、やはり原作自体が面白かったことにつきます。
 
 池井戸潤さんは、銀行員から作家になった方で、会社や銀行、金融の実情に詳しく、またそこで織りなされる人間ドラマをもとに、会社の在り方や働くことの葛藤など、様々な問題提起をされながらかいています。
働くことに関する言葉の熱量も半端ないものがあります。
 
 いろんな読み方ができる本ですが、「様々な対立場面を描くことで、それぞれの葛藤を浮き彫りにして、考えさせられる内容だった」と感じました。
 
1 大企業 VS 中小企業
2 銀行 VS 中小企業
3 夢(を追いかける事) VS お金儲け
4 社長 VS 社員
5 古参社員 VS 若者社員
6 夢を叶える VS 夢をあきらめる
 
 今回は、佃製作所という中小企業、その社長、社員らが主役(中心)にかかれていたので、そちら側に正義があるとか、応援したくなる気持ちになりました。
 しかし、物語では、悪者的な扱いだった銀行も大企業も、そして、そこで働く人にも、それぞれの考えがあり、事情があり、様々です。

 ただ、「何のために働くのか」「夢があるか」などは、共通したテーマでした。
 
「金儲け、生活のために働くのか」
「夢のために働くのか」
 
 物語の中では、佃航平社長が、ロケットエンジンづくりで社員と対立した時に社員に向けてはなった言葉に一つの回答がある気がしました。

 仕事っていうのは、二階建ての家みたいなものだと思う。一階部分は、飯を食うためだ。必要な金をかせぎ、生活していくために働く。だけど、それだけじゃあ窮屈だ。だから仕事には夢が無きゃならないと思う。それが二階部分だ。夢だけ追っかけても飯は食っていけないし、飯だけ食えても夢が無きゃつまらない。

他にも、「人間の本質」に関わる言葉も池井戸さんの魅力の一つです。
いくつか紹介!! 

・かっとなると内側に貯めるタイプだ。だから怒ると静かになる。

・不都合なことを隠しておきたいというのが人情と言うものだ。

・人間の本性が現れるのは。平時ではなく、追い詰められた時である。

・傷つけた方は簡単に忘れても、傷つけられたほうは忘れられない

・設計図通りに試作するには、機械よりも手でやったほうが融通が利くんでね。もちろん、全部と言うわけではないが、出来るところは手作業でやっている。手作業だと機械でやるのと比べて、考えるヒントが生まれる。たとえば、途中まで穴を開けたところで、やっぱりここよりもあっちに明けた方がいいんじゃないかとか、くみ上げる前に設計のまずいところが分かったりもする。作ってからうまく作動しないことも、手作業の方がかえって少ない。結果的に試作工程の効率を上げることになるわけだ。

・社長の夢なんぞを追究するために会社を経営されてはたまったものではない。
 ・・・だが、俺にだって人生はあるんだぜ

・信用っていうのはな、ガラス製品と同じで一度割れたら元に戻せないんだよ

経済に疎い私ですが、池井戸さんの本を読んで、銀行の仕組みや「経常利益」「営業利益」などの意味も知ることができ、楽しみながら勉強もできちゃいました。

皆様の心にのこる一言・学びがあれば幸いです

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