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Natural Mysticに関するあれこれ1(ターニングポイント)


ジャマイカ脱出

アルバムRastaman Vibrationのリリースから8ヵ月後、1976年12月に何者かがリハーサルのためにボブの家に集まっていたウエイラーズを銃撃する事件が起きました(詳しくは「Rat Raceに関するあれこれ」https://note.com/kind_acacia887/n/ne0e5309a1b8b?magazine_key=m1ce72016b863をお読みください)。

事件を伝える新聞記事

銃弾を浴びたボブは左腕に弾が入ったままの状態で予定されていたコンサートに出演、翌日ジャマイカを出国してバハマ経由でアメリカに渡ります。

アメリカで傷の治療を受けた後、1977年2月にロンドンに移り、アイランドレコード(Island Records)社長クリス・ブラックウェル(Chris Blackwell)が提供したチェルシー地区の4階建てタウンハウス(townhouse)を新たな住まい兼活動拠点としました。

今では観光名所です

ここにウエイラーズのメンバーを呼び寄せて曲作りを再開、共同生活しながらレコード制作に取り掛かります。

命の危険を味わった祖国ジャマイカを自主的に離れたボブのロンドンでの生活は14カ月続きました。

アルバム構成

旧約聖書の出エジプト記に倣ってExodus(「脱出」)と題されたこのアルバムに収められた曲はすぐ次のアルバムKaya収録のナンバーと同時期にロンドンのべーシング・ストリート・スタジオ(Basing Street Studios)で録音されたものです。

Exodusはこれまでのアルバムとまったく違うコンセプトで作られています。

音楽アルバムがLPレコードとしてリリースされていた1970年代、アルバムを構成するトラックはレコード盤のふたつの面(A面とB面)に振り分けられていました。

おそらくブラックウェルのアイデアだと思いますが、Exodusはこれを最大限に利用してA面にボブがラスタ哲学を語るナンバー、B面に「愛」を歌った曲を収めています。

ふたつの顔を持つアルバムになっている訳です。

(Exodus収録曲)

A面に置かれたラスタ思想を映し出す5曲のトップNatural Mysticは、静寂からのフェードインが印象的なミステリアスな曲です。一曲目から「語りすぎないように」という制作上の意図が感じられます。

2~4曲目はリスナーに歌詞の意味を考えさせる組曲となっていて、5曲目Exodusで闇から「脱出」、サイドを変えた6曲目Jammingで光の世界に入ってラストのOne Love/ People Get Readyまで美しいラブソングが続くという見事な構成になっています。

ロンドン生活

移住の2年前、1975年にボブはロンドンのライシアム・シアター(Lyceum Theatre)で伝説的ソールドアウトコンサートをおこなっています。

ライシアム・シアター

その演奏が録音されライヴ盤として発売され、ボブの人気を欧米で不動にする大きな役割を果たしました。

亡命のために到着した時点でボブはロンドンでもすでに大スターだった訳です。

セキュリティの不安がない場所でまず心と身体を休めたボブですが、すぐに大都会ロンドンの生活をエンジョイし始めます。

近所の公園で仲間たちと毎日サッカーを楽しみ、DJで映像作家のドン・レッツ(Don Letts)や音楽ジャーナリストのヴィヴィアン・ゴールドマン(Vivien Goldman)といった水先案内人を通じて出会ったパンクロッカーたちやウエイラーズをお手本にルーツレゲエを演奏していたアズワド(Aswad)を始めとする在英カリビアンミュージシャンたちと親交を結びました。

Bob and his football teammates in London
With Don Letts
ASWAD in their early days

音楽としてのパンクはまったく評価していなかったそうですが、イギリス滞在期間にその名もPunky Reggae Partyというダンスナンバーを12インチシングルとして発表してロンドンが生んだrebel(反逆者)パンクスに敬意を表しています。

 さらにサポーターとして応援していたトッテナム・ホットスパー(Tottenham Hotspur、通称スパーズ)の試合を観戦し、目立たないようにロンドンを離れて所属ラスタ集団イスラエルの12部族(Twelve Tribes of Israel)のマンチェスター支部の集会に参加して、シークレットギグという形でそこで演奏したりもしていたそうです。

シークレットギグの様子

同じようにロンドンで亡命生活をしていたエチオピア王家の人たちとも出会って親しくなっています。彼らから贈られたユダ族の獅子(Lion of Judah)をあしらった黄金の指輪を大切にしてこの世を去るまでいつも身に着けていました。ベストアルバムLegendのジャケット写真のあの指輪です。

これです

誰でも理解できる英語へ

世界中から人が集まるロンドンでの暮らしはボブの言語感覚にも影響を与えました。

それまでのボブはパトワを部分的に歌詞に取り入れてジャマイカン以外には意味がとれない箇所を意図的に作り出していました。

対照的にExodusでパトワが出てくるのは1か所(The Heathen)だけです。

基礎的英語力がある人なら誰でも分かる標準的で平易な英語で歌うという新しいポリシーがはっきりと打ちだされています。

様々な国や地域からやってきた人たちが英語を共通語として互いにコミュニケートする都市ロンドンの現実を目の当たりにして進むべき方向が定まったのかもしれません。

(イメージ画像)

以上、今回のあれこれパート1はロンドンでの生活がボブにあたえた影響に関してでした。パート2ではNatural Mysticに登場するラッパが吹き鳴らされる「ヨハネの黙示録(The Book of Revelation)」について説明していきます。 

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