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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう

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連載小説のまとめです。 1話あたり2、3分で読めるようになってます。 ほのぼの家族の代わり映えしない日常の、ほんの少しずつの変化を描いていきます。
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2020年12月の記事一覧

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<6>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<6>

プクプクからサクサクに 寝返りしだしてからの綾はみるみる痩せていった。
 あ、虐待ではないです。
 今までは食べて寝る、泣く、なんか動いてる、だけだったのが、全身を動かし始めてから目に見えてスリムになってきた。
 筋肉質、というほど筋肉があるわけではないけれど、何となく力がついて消費カロリーが増えたんだろうなぁ、という想像がついた。
 かく言う僕も筋トレは欠かせないのだが、年追うごとに脂肪が付きや

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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<5>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<5>

寝返りのころ とうとう、寝返りができるようになった。
 ただ寝っ転がっていた生き物が、自由に動くようになってしまったのだ。
 この衝撃は、一緒に暮らした者しか分からないと思う。
「じゃあ、綾は真ん中で。雄輝くん、寝返りして潰しちゃ、や、だからね」
 宮子に念を押される。僕だって自分の子供を潰したくはないよ。
 しかし僕たちは甘く見ていたのだ、寝返りを打つ子供というものを。
 まさに「川の字」になっ

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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<4>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<4>

お風呂争奪戦 お風呂に入るのも、毎日がイベントだ。
 まず、誰が入れるかでもめる。僕は入れたい派だ。
 宮子は僕の手付きが危なっかしいから任せたくないらしい。まあ、実際不器用だし。
「でも、今日は僕が入れるからね」
 と、強行した。
「落とさないでよ?」
 当然の心配だけど、信用されてないな。
 まずは自分が温まって。体を洗って。また温まって。
「いつまでのんびりしてるの?」
 宮子からクレームが

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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<3>

子供のいる生活 それからニヶ月ほどが経ち、僕らの生活はてんやわんやだった。
 まず、子供は長く寝てくれないのだと知った。
 ニ時間ごとに起こされる。
 まだ宮子のお乳が充分に出ておらず、ミルクを作る間は僕があやしたり、逆だったり。
 何となく僕にもオムツかミルクかは分かるようになってきたので、オムツのときは僕が取り替えて少しでも宮子を寝かせる。
 日中、僕は仕事に(悪い言い方だけど)逃げられるが宮

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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<2>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<2>

赤ちゃんは本当に赤い 僕は宮子の手を握って、祈り続けていた。
 強がってはいても、辛いのは確かだろう。それは表情を見れば分かる。
 どうか無事に産まれてきますように、母子ともに無事でありますように。
「では、いきんで」
 医師の声で出産が始まったことが分かる。
「んんんんーーーーっ」
 宮子が顔を真っ赤にしていきむ。
 辛そう……僕の手を握る力が倍加する。痛い、でも宮子はこの何倍も痛いんだ。
「は

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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<1>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<1>

チチ、父となる 昔見たマンガに、お父さんのことをチチ、お母さんのことをハハと子供が呼ぶものがあったんだ。
 それがすごく可愛くて、自分の子供ができたらぜひそう呼んでもらいたい、と思っていた。

 その時が今、目の前に迫っている。
 いや、正確にはそう呼んでもらえるまではまだまだ時間がかかるんだろうけど、一つの区切りには違いない。
 先ほどまで陣痛で苦しんでいた宮子は車いすで運ばれていった。時期に僕

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