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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<2>

赤ちゃんは本当に赤い

 僕は宮子の手を握って、祈り続けていた。
 強がってはいても、辛いのは確かだろう。それは表情を見れば分かる。
 どうか無事に産まれてきますように、母子ともに無事でありますように。
「では、いきんで」
 医師の声で出産が始まったことが分かる。
「んんんんーーーーっ」
 宮子が顔を真っ赤にしていきむ。
 辛そう……僕の手を握る力が倍加する。痛い、でも宮子はこの何倍も痛いんだ。
「はい、頭が見えてきましたよ」
 何度目かの挑戦で、そう伝えられた。赤ちゃんも頑張ってる。
 頑張れ、頑張れ。そう祈る。
 そして、ふと、静寂が訪れる。
「ああああーー」
 か細い、泣き声が聞こえた。ふっ、と空気が緩んだのが感じられた。
「産まれましたよ、元気な女の子です」
 看護師さんが僕と宮子の前に産まれたての赤ちゃんを連れて来てくれた。しわしわで、真っ赤で、脂のようなものでベトベト。
 でも、間違いなく僕たちの、子供だ。
「良かった」
 宮子がほっと呟いた。本当に、良かった。
「ありがとう、宮子。頑張ってくれて」
「どういたしまして、で、ビデオは撮ってくれた?」
 言われて気付いた。僕の左手に握られているもの。
「あ、わ、忘れてた。いろんなことがありすぎて……ゴメン」
 彼女が呆れた顔で吹き出した。
「もう、しかたないね。じゃあさ、今からでも撮らない?」
「あ、うん、そうしよう」
 慌てて電源を入れる。二人をフレームに納め、ビデオ撮影と同時にシャッターも切る。
 可愛いな。
 落ち着いて、ようやくしっかりと見つめることができた。
 僕たちの子供。
 名前はもう決めてあった。
 綾……太田綾だ。

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