木元哉多

埼玉県生まれ。2018年『閻魔堂沙羅の推理奇譚』にてメフィスト賞を受賞しデビュー。著書に『閻魔堂沙羅の推理奇譚』シリーズ。

木元哉多

埼玉県生まれ。2018年『閻魔堂沙羅の推理奇譚』にてメフィスト賞を受賞しデビュー。著書に『閻魔堂沙羅の推理奇譚』シリーズ。

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    木元哉多ゼミ〜推理作家の思考 第43回 映画講座 『わたしは、ダニエル・ブレイク』②

        イギリスの行政では、多くがオンライン申請になっています。でも、ダニエルのような老人にはそれも難しい。だからといって、行政は助けてくれません。いろんな意味で、弱者に寄り添う制度になっていない。     このオンライン申請を、隣人のマックスが助けてくれます。     彼は犯罪者ですが、根はいい人です。だから中国マフィアに利用されてしまうのですが。     その彼がダニエルにこう言います。 「役所は助ける気なんてない。とことんミジメにさせるだけ。すべて保身さ。大勢申請をあ

      • 木元哉多ゼミ〜推理作家の思考 第42回 映画講座 『わたしは、ダニエル・ブレイク』①

            同じく貧困をテーマにしたものとして、イギリス映画の『わたしは、ダニエル・ブレイク』を取りあげます。     この映画もバックグラウンドは格差社会なのですが、どちらかというとイギリスの福祉制度の欠陥に力点が置かれています。     主人公は59歳のダニエル・ブレイク。     ニューカッスル在住で、妻に先立たれ、一人で暮らしています。     大工ですが、心臓の病気で医者から働くのをやめるように言われる。生活は普通にできるのですが、心臓に時限爆弾を抱えていて、ストレス

        • 木元哉多ゼミ〜推理作家の思考 第41回 映画講座 『万引き家族』③

              是枝映画の特徴は、まず脚本がきれいなことです。     起点から変点、そして結末へ。という流れは、映画のもっともオーソドックスな造りなので、かえって平板になりがちです。     なので物語のなかで謎を設定して、その答えとなるヒントを伏線として細かく配置していく。これだけでも起伏ができて、映画はだいぶ観やすくなります。     最後に謎が明かされて、幕を閉じる。無理のないかたちでミステリーのエッセンスを取り入れていて、工夫を感じます。     セリフが少ないのも特徴です

          • 木元哉多ゼミ〜推理作家の思考 第40回 映画講座 『万引き家族』②

                ここまでが物語の前半です。     ここからが後半。起承転結でいえば「転」になります。僕は「起点」に対して「変点」と呼んでいます。     ここで事態が急変する何かが起きなければならない。それは前半部分までの均衡を崩す何かでなければなりません。     それが祖母の死です。     突然、祖母が亡くなります。だが、なぜか火葬場に連れていけない。     たぶん死亡診断書を取れないからですが、それがなぜなのか分からない。年金を不正受給するためかと最初は思うのですが、そん

            木元哉多ゼミ〜推理作家の思考 第39回 映画講座 『万引き家族』①

                以前、韓国映画『パラサイト    半地下の家族』を取りあげました。     同様に貧困をテーマにしたものとして、日本映画の『万引き家族』を取りあげます。     日本と韓国、お国柄は似ているところもあり、正反対のところもありますが、貧困について語るとき、家族というものが並列して出てくるところがアジア的と言えるかもしれません。     この『万引き家族』は、貧乏なので万引きをして生活費を浮かせています。     祖母、父、母、母の妹、息子の五人で暮らしています。『半地下

            木元哉多ゼミ〜推理作家の思考 第38回 小説講座 第2巻第2話 池谷修編②

                池谷は悪人です。でも、生まれたときから悪人だったわけではない。     僕は小説を書くとき、前作のイメージを引きずることが多い。     前話の武部建二が、法が裁けない悪を叩き潰すために毒を飲んだのに対して、池谷は自分が生き残るために毒を飲まざるをえなかった、という対比があります。     池谷は物語の主人公です。     悪人だとしても、読者が感情移入できる存在でなければいけない。     池谷が毒を飲んで悪人になるまで、いったい何があったのか。そして阿賀里と出会っ

            木元哉多ゼミ〜推理作家の思考 第37回 小説講座 第2巻第2話 池谷修編①

            『閻魔堂沙羅の推理奇譚    負け犬たちの密室』第2話の池谷修編。     着想は、第1巻を読み終えたときの担当編集者からの指摘でした。     すべてがいい話におさまりすぎている。     結果的にメフィスト賞を取ったのですが、読んだ編集者全員が賛同したわけではなく、そういう批判もあったという話でした。     ある意味、当然の感想です。     このシリーズのフォーマットは「成長小説」であり、主人公は最後に成長して終わります。クライマックスで主人公の成長ぶりが見えて、その

            木元哉多ゼミ〜推理作家の思考 第36回 小説講座 第2巻第1話 武部建二編②

                冒頭で、武部はチンピラを懲らしめます。     このチンピラは、民間人を脅迫して、嘘のアリバイ証言をさせています。それによって仲間を罪から救おうとしている。     武部はそれを見抜いて、逆にそのチンピラを襲って脅迫し、アリバイ証言を撤回させます。そうして事件を解決に導くのですが、ここで武部がやっていることは違法捜査に他なりません。     なぜ武部は違法捜査をするのか。     作家は、必ずここをしっかり考えなければいけない。     単純に考えれば、「郷に入っては

            木元哉多ゼミ〜推理作家の思考 第35回 小説講座 第2巻第1話 武部建二編①

            『閻魔堂沙羅の推理奇譚    負け犬たちの密室』第1話の武部建二編。     最初の着想は、中年を主人公に据える、ということでした。     第1巻とは目先を変えるためです。     このシリーズの枠組みは「成長小説」なので、基本的に若者が主人公に選ばれています。若者にとって成長とは、単純にいえば親から自立することであり、これまでできなかったことができるようになることです。     たとえば内気で人前で満足に話せなかった子供が、社会人になったらちゃんと自分の考えを言えるように

            木元哉多ゼミ〜推理作家の思考 第34回 映画講座 『パラサイト 半地下の家族』⑤

                ちなみにですが、この金持ち家族は基本的にいい人たちです。     物価が上がったからといって、進んでインフレ分を給料に上乗せしてくれたりする。単に育ちがいいだけかもしれませんが。     ただ、貧乏人の生活をまったく知らないし、考えたこともない。自分たちのサークルの外にいる人たちの苦しみに対して、極端に鈍感です。だからちょっとした発言に、差別的な表現がひょいと出てきたりする。     ここらへんは日本の政治家の問題発言と似ています。無知と想像力の欠如です。    

            木元哉多ゼミ〜推理作家の思考 第33回 映画講座 『パラサイト 半地下の家族』④

                物語の最後。貧乏・父のギテクが、金持ち・父のドンイクを殺します。しかも一見、脈絡のないタイミングで。     なぜなのか。     本来、隔絶されていなければならなかった二つの階層が交わってしまうことが、この物語の起点になっています。     金持ちは金持ちのサークル内で生き、貧乏人は貧乏人のサークル内で生きる。両者は交わらないことで、争いを回避しています。     しかしギテクは、金持ちのサークルに入って、その生活を内側から見てしまう。     金持ちはとても金の

            木元哉多ゼミ〜推理作家の思考 第32回 映画講座 『パラサイト 半地下の家族』③

                便所コオロギのような「半地下」の匂いがもっとも強いのがギテクです。     そしてその匂いが、金持ちたちの鼻につく。ギテクの体臭に、金持ち家族がしかめ面をするシーンが何度もあります。     金持ち・父のドンイクと、母のヨンギョの夫婦の会話にも出てきます。     ドンイク「だけど、あの匂いが超えてくるんだよな。後ろまでやたら匂ってくる」     ヨンギョ「なんの匂いかしら?」     ドンイク「さあな。とにかく説明するのは難しい。ああ、時々、地下鉄に乗ると匂いがす

            木元哉多ゼミ〜推理作家の思考 第31回 映画講座 『パラサイト 半地下の家族』②

                この映画は、金持ち家族と貧乏家族という、交わってはいけない二つが急接近することが物語の起点になっています。     本来、この二つは棲み分けされています。     金持ちが行く店は高級百貨店、貧乏人が行く店は薄利多売のスーパー。学校も、金持ちは私立に行き、貧乏人は公立に行く。したがって接する機会がほとんどない。     金持ちは、貧乏人が自分たちの生活圏に入ってくることを嫌います。     一つは貧乏人を犯罪者予備軍と思っているからです。飢えた貧乏人たちが、自分たちの

            木元哉多ゼミ〜推理作家の思考 第30回 映画講座 『パラサイト 半地下の家族』①

                エンタメと風刺を両立させている作品として、近年もっとも完成度が高いと思うのが、韓国映画の『パラサイト    半地下の家族』です。     この映画には二組の家族が出てきます。金持ち家族と貧乏家族。ともに核家族で、家族構成は似ています。     貧乏家族    父・ギテク、母・チュンスク、兄・ギウ、妹・ギジョン     金持ち家族    父・ドンイク、母・ヨンギョ、姉・ダヘ、弟・ダソン     貧乏家族は、四人とも無職です。     兄・ギウは高校卒業後、大学に受か

            木元哉多ゼミ〜推理作家の思考 第29回 社会講座 エンタメと風刺④

                引き続き、『BAN』の話。     ゲームをしているうちに大人になってしまった子供の話です。     子供といっても精神年齢のことで、もしかしたら二十代、三十代かもしれない。     まわりは大人になっていて、就職したり結婚したりしています。仕事や育児で忙しくしている。でも、自分だけ築きあげてきたものが何もない。気づいたら、まわりには誰もいないし、社会的に無視されている。     彼はゲームをしているときは、何も考えていません。快感の連続で、興奮状態にあります。ゲーム

            木元哉多ゼミ〜推理作家の思考 第28回 社会講座 エンタメと風刺③

                エンタメと社会風刺がうまく両立できている作品として、秋元康作詞、櫻坂46の『BAN』を取りあげます。     僕は文章を書くうえで、秋元康をとても参考にしているのですが、彼の作品のなかでもこの『BAN』は特に不思議な感じがします。     明け方までスマホで動画観てた    それじゃ起きられるわけがない     全てのことに遅刻して    今日もサボってしまった     カップ麺    お湯を注いで    「それなら寝てりゃよかった」     なんて    あくびし