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「太陽の面談」

太陽は面談室に入ってくると、この半年を静かに振り返った。

「自らの光から隠れていました。あまりにも悲しかったので。でも、それもひとつの経験でした。照らしている月がいないと、自分の存在を認められなかった寂しさを思い出します」
書類には、太陽がこの半年で成し得た成果が数字で示されていた。
私はデータだけでは見えない、太陽の内側を知りたいと思っていた。
「この半年は特に、電荷を持たずに小さな粒たちで纏まっていたみたいですが、どうしてですか?」と私は尋ねた。
太陽はしばらく考えこんでいる。
私からすれば、これは立派な進化の過程なのだが、太陽はこのところ元気がないようだった。
太陽は言った。「原子を衝突させて、エネルギーを発生させる時は過ぎました。これからは、それぞれが異なる立場から、自分の光を照らしたらどうかと思っています」
私は実に素晴らしい意見だと思って、大きく頷いた。
「あなたも、毎日の月を褒める代わりに、光を放っている自分を讃えてくださいね」と伝えると、太陽は静かに「はい」と言って部屋を出て行った。
一年前に『人間はまだ、生体の中に生まれてくるから、おっしゃる通りですと私は頷きたいんです』と言った太陽の言葉が忘れられない。

面談後、太陽は何処へ行くのだろうとつい気になってしまい、私はそっと後をついて行った。
太陽は、幾千もの細胞のように連なる部屋の前に立っていた。
天井では、真っ白い太陽の肖像画が輝いている。
左側には壊れつつある太陽と、右側には今生まれようとしている太陽の絵が飾られている。
ここには全ての彼/彼女の歴史が詰まっているようだった。

太陽はしばらく悩んだが、中央の部屋に入ることを決めた。
扉を勢いよく開けると、太陽はたじろいだ。これまでに仕事で出会った人々がそこに集まっていたからだ。
数多くの天使と、色とりどりの惑星と、流れるエネルギー体。それに妖精や、酸素や炭素など数多くの元素たちもいる。
太陽は何にも話しかけず急いで通り抜けると、一番奥の扉を開けた。

太陽はまたしても面食らってしまった。そこには太陽の、過去の恋人たちが皆いた。優雅にアールグレイの紅茶を飲んでいる。
太陽はスコーンをつまみ食いすると、背筋を伸ばして踊るように部屋の奥まで行き、振り返らずに次の扉を開いた。

そこにはかつての、太陽の先祖たちが料理を準備していた。慌ただしく声が飛び交う調理台を通り抜ける。配膳をするよう一度は呼び止められたが、太陽は急いでいるふりをして一番奥の扉を目指した。

次の扉を力一杯に開いた時、そこはもう、緑の丘の上だった。
これより高い所はないだろうと思える頂上に、ひとつの家と澄んだ湖があった。ひんやりとして、とても静謐な空間だった。
太陽が辺り一帯の壮麗さに圧倒されていると、家の中からもっと穏やかな自分の声が聞こえた。
「ここにいると、全ての音が、美しく響いてくるんですよ」

太陽は、自分はこの身ひとつだけのものと思っていたが、自分の中により一層、大きな存在としか言えない太陽も存在しているのだと初めて知った。
いつでも休める私だけの空間が、ここにはある。
太陽は、自らの光が住まう家へお辞儀をすると、中へと入っていった。



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