写真と民俗【物部村・いざなぎ流】~呪と祓いと式~
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どうもメダカです
初めましての方は初めまして
今回は陰陽道にルーツを持ち、呪術と祓いと式を操る民間信仰【いざなぎ流】が伝承されていると言われる高知県物部村に行って来ました。
※注意 具体的な呪術や霊障について取り扱っています、苦手な方はご注意ください。
自己責任でお願いします。
あと最近記事が長くてごめんなさい。
いざなぎ流
いざなぎ流って知っていますか?
いざなぎ流とは、高知県・物部村を中心に伝えられる民間信仰で、
【太夫】(たゆう)と呼ばれる祈祷師が、
依頼に応じて、占いや神の怒りを鎮める儀式、病の原因となる呪いのお祓いなどを行なってきました。
儀礼ではさまざまな紙の御幣を飾り、祭文を唱え、舞などの芸能を行います。
いざなぎ流の源流は、平安時代末期と言われますが、定かではありません。
巫女信仰・陰陽道・修験道・密教などの要素が混じり合って作られたモノと言われています。
※祭文(さいもん) 神を祭り神に祈るとき使う文章
※御幣(ごへい) 白い半紙を、階段のように斜めに織った和紙で、神様にそなえる捧げ物のこと。
具体的にどんな占いや祓いをするのか?
それでは少し具体的に、いざなぎ流の太夫はどんな占いやお祓いをするのかを解説していきましょう。
病の障りと占い
たとえば、あなたが病気になった時、まずは当たり前に医者に診てもらいますよね?
診察してもらい薬を飲み病気が治ります。
しかし病気がなかなか治らない場合、物部村の人は「この病気は、医学では治せない病気なのでは?」という疑いを持ちます。
つまり医者でもなおせない病気それは、「神秘的な存在」が身体に害をもたらしている可能性。
村人はそれを【障り(さわり)】と呼び、
神秘的な存在が病人に障って(触って)いると考えます。
そこで村人は、いざなぎ流の太夫をやとい、占ってもらい、【障り】の原因が明らかにします。
その1 神仏や霊の怒り
【障り】には大きく分けて二つのモノがあります
ひとつは神仏や祖先の霊の祟り。
村人はコレを【お叱り】と呼び、村人が神仏の宿るとされている聖地にむやみに立ち入ったり不敬を働いた場合、
神仏はその人間に怒り病を与えて、制裁を科します。
そこで、病気になった者は怒っている神仏に供物を捧げて謝罪し、これを神仏が受け入れれば病気は治ると信じられて来ました。
これを【大山鎮め】と呼び太夫の仕事の中でも重要な儀式の一つです。
2 呪術による呪い
次に、もうひとつの原因として、
誰かが誰かに恨みや妬みなど感情を抱き、呪いをかけた時に起きる障り。
病気の原因が神霊などの【お叱り】では無い場合、「この病気は誰かが自分に【呪詛】をかけたのではないか?」と考えます。
つまり、自分に対して悪意をもっている人間が、自分に呪いをかけ、そのために病が障ったのではないかと考えます。
※呪詛(すそ) のろうこと。のろい。一般的には じゅそ と読む
太夫の治療と祓い
障りの原因を占った後、太夫による病気の治療である祓いを行います。
もし原因が神霊による【お叱り】だった場合は前記の通り神仏に供物(御幣)を捧げて謝罪をし、許しを乞います。
もし誰かに恨まれ【呪詛】を受けていた場合、太夫は呪われた人の身体から呪いを取り出して、
【みてぐら】と呼ばれる藁の器に人形の御幣を立てた呪具に呪いを移し【すそ林】と呼ばれる邪悪な霊物などを捨てるゴミ捨て場へと持っていき祓い捨てます。
また林に捨てるのではなく埋めたり川に流す場合もあります。
呪詛を【みてぐら】に移し祓い捨てるという発想は、【形代】と似ていますね。
※みてぐら 神道では御幣の別称、いざなぎ流では呪詛を封じ込める呪具をみてぐらと呼ぶ模様
※形代(かたしろ) 本人に代わって形代に罪や穢れや災厄を移して海や川へ流すこと
祓いのプロ=呪いのプロ
こういった祓いの中には、単純に受けた呪いを【みてぐら】に移し祓い捨てるだけでなく、
呪詛をかけた呪術師に呪いを送り返す、【呪詛返し】もしくは【調伏返し】という手法も数多く存在します。
太夫達はこの呪詛返しを「返りの風を吹かす」と呼び、呪って来た相手を更に強い呪詛で呪い返す行為で、その一つが【天道血花式】(てんどうちばなしき)と呼ばれる呪術です。
何が書いてあるかわからないと思いますが、要約すれば、【式王子を使い呪いを剣で切り刻む】という意味です。
【式王子】とは式神の事を指し、夢枕獏の小説【陰陽師】やアニメや漫画にも出てくる有名なアレです。
式神をいざなぎ流では【式王子】と呼びます。
お互い呪詛と呪詛返しの応酬に負けた場合を、【法負け】と言い負けた側は強烈な呪いを受けて死に至ると言われています。
こうして商売敵に負けない為にも太夫達は、新たな呪法を数多く編み出して行くことになります。
※式神(しきがみ) 陰陽師が使役する鬼神のこと。主に鬼神を紙に宿らせる。
呪うだけじゃない、いざなぎ流
もちろん太夫は呪ったり呪い返したりするだけが仕事ではありません、ほかにもいろいろな儀式に取り組んでいます。
神霊などの【お叱り】と恨みを抱いた相手から受ける【呪詛】以外の太夫の仕事と特徴を紹介します。
日月祭
日月祭とは数十年に一度行われる、御崎様(オンザキ様)・天の神・家の神・月の神などの神々をもてなす、いざなぎ流でも最も重要な大祭です。
その家々によって祭る神が違い、日月祭ではそれらすべての神々をもてなすので日月祭は一週間に渡り続きます。
太夫たちは毎夜神楽を舞い、神々をもてなし最終日に月を拝み終わります。
日月祭を持って神々に家族と一族の平和を祈ります。
これらの神々は普段天井裏などの家の上部、つまり家の天上界に当たる神聖な場所に祭られています。
この神々を祭る天井(天上)を【サンノヤナカ】と呼び家主以外は近寄る事も許されない神聖な空間とされていました。
※御崎様(おんざきさま)
一般的にはみさき様と呼ばれ、神道や民俗信仰で神の使い、または大神に従属する神々の化身とされるものとされるが、
いざなぎ流においては自然を包括する、最高位の神と言われていたり、
逆に犬神のような憑き物ではないかと言われたりしており、
実態はハッキリしませんが、複数の神を一つにまとめた総称ではないかと言われています。
ミコ神
これは死者の魂をミコ神という家の守り神にする儀式です。
太夫は墓の前で六道という御幣に霊を宿らせ、「石があるぞつまずくな。火のハシが走っているが驚くな」と呼びかけながら家へ連れて帰ります。
十二仮面
十二仮面これはいざなぎ流の儀式の際に使われる仮面で、12面で一揃いとされ普段は家の神と同じく天井裏などの家の上部に保管されています。
災いから家を守り、悪い式王子を食う式食いの面とも呼ばれます。
大事な儀式の時以外は箱の中に収められており、みだりに箱を開けて仮面を見ると罰が当たると言われています。
神がかり
神のお告げを聞くために儀式によって神を自分の体に降ろし、神のお告げを聞く占いの一種です。
弓の弦をはじきながら法文を唱える事によって神霊が降りてきます。
写真でめぐる、物部村
徳島県と高知県の村境、山々に張り付くように家が建つ物部村は、現在過疎化の一途を辿り、
いざなぎ流も文化遺産としての意味合いを強め、伝承者も数が減っていますが、
今でもいざなぎ流のゆかりの地や資料を見ることが出来ます。
それでは早速撮って来た写真でいざなぎ流ゆかりの地を見ていきましょう。
市宇十二所神社
市宇十二所神社(いちうじゅうにしょじんじゃ)
なにも知らずに行けばただのぼろい神社ですが、いざなぎ流にとって最も重要な場所かもしれません。
この神社で大祭・日月祭は一週間かけて行われます。
高知県立歴史民俗資料館
いざなぎ流の資料に関して言えば大体ここで見ることが出来ます。
物部村からは離れていますが必ず行くべき場所です。
奥物部美術館
現在改装中で行くことが出来ませんでした
(´;ω;`)
香美市物部町農林漁業体験実習館
こんにゃくや豆腐作りが体験できる施設です。
「関係ねえじゃん!」と思いますが実はこちらの施設の二階に、郷土資料館がこっそりとあります。
受付のおばあさんに「二階の資料館が見たい」と言わないと特に勧めもしてくれませんし、
ただの豆腐作りの体験の施設としか説明してくれませんのでご注意ください。
小松神社
ここに行くのはある程度覚悟を持って行ってください。
崖すれすれの山道を5キロほど走ってやっと神社の入り口にたどり着き、
そこから階段を永遠と下った先に小松神社はあります。
かなりの秘境なので体力に自信のない人はお勧めしません。
まとめ
いかがだったでしょうか?
知らずに行けばただの過疎化した村であり、
見る場所もなく通り過ぎてしまうような所ですが調べれば調べるほど奥の深い場所です。
本当に呪術や神霊がこの世に存在するかは現代でも証明することはできませんが、
今でも太夫には他所から「〇〇を呪い殺して欲しい」などの依頼があるそうです。
僕はそういった類のオカルトは信じませんが、
宗教やオカルトが歴史に大きな影響を与え続けた事実を考えるとそう簡単に否定も出来ませんね。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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参考文献
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