ＪＷ６０９　神庫の梯子

【垂仁経綸編】エピソード31　神庫の梯子

第十一代天皇、垂仁すいにん天皇てんのうの御世みよ。

西暦58年、皇紀こうき718年（垂仁天皇87）2月5日。

ここは、石上いそのかみ神宮じんぐう。

地図（石上神宮）

石上神宮（鳥居）

石上神宮（拝殿）

神宝しんぽうの管理を掌つかさどる、皇子みこの五十瓊敷入彦いにしきいりひこ（以下、ニッシー）は、ある人物を呼び寄せていた。

その人物とは、妹の大中姫おおなかつひめ（以下、ダッコ）であった。　

系図（ニッシー、ダッコ）

ダッコ「兄上？　如何いかがなされました？」　

ニッシー「うん。僕も、もう歳としだ。神宝しんぽうを掌つかさどることが出来できなくなった。そこで、これからは、汝なれが掌れ。」　

ダッコ「兄上？　歳が、さほど変わらぬ妹に頼むって、おかしくありませぬか？」　

ニッシー「そうだよねぇ。僕も、そう思うけど『日本書紀にほんしょき』に書かれた台詞せりふだから、仕方しかたないね。」　

ダッコ「真まことは、厭あきたのではありませぬか？」　

ニッシー「そうかもしれないけど、ノーコメントにしておこう。」　

ダッコ「それに、別の問題も有りまする。」　

ニッシー「別の問題って？」　

ダッコ「私は、か弱い女おなごなんですよ？　どうして、神庫ほくらに登ることが出来できましょうか・・・。」　

ニッシー「神庫ほくら・・・神宝しんぽうを納める高い倉庫のことだね？」　

ダッコ「そうです。あんなところ、登れません。」　

ニッシー「よし！　それじゃあ、梯子はしごを作ろう。そうすれば、困こまることはないでしょ？」　

ダッコ「これが『天あめの神庫ほくらも樹梯はしだてのままに』という諺ことわざの語源なのですね？」　

ニッシー「そうなんだけど、読者の時代には、そんな諺ことわざ、残ってないんだって。」　

ダッコ「なっ！　(；ﾟДﾟ)」　

ニッシー「それじゃあ、頼むよ！」　

ダッコ「ちょっと！　兄上！」　

颯爽さっそうと走り去っていく「ニッシー」の背姿せすがたを眺ながめながら、「ダッコ」は決意した。　

ダッコ「石上いそのかみ神宮じんぐうを掌つかさどっているのは、物部氏もののべ・し・・・。大連おおむらじに、お願いしちゃお。」　

こうして、大連おおむらじの物部もののべの連むらじの十千根とおちね（以下、ちね）が、管理することになったのであった。

そして、年が明け、西暦59年、皇紀こうき719年（垂仁天皇88）となった。

その年の7月10日。

ここは、纏向珠城宮まきむくのたまき・のみや。

地図（纏向珠城宮）

垂仁天皇こと、活目入彦五十狭茅尊いくめいりひこいさち・のみこと（以下、イク）は、詔みことのりを発はっした。　

イク「僕は、新羅しらぎの王子せしむ、天日槍あめのひぼこが、やって来た時に将来しょうらいした宝物ほうもつ、『玉津宝たまつたから』が、今、多遅摩たじま（兵庫県北部）に有って、その国の人から貴たっとばれ、神宝しんぽうになっていると聞いている。僕は、その宝物が見たい。」　

するとここで、大連おおむらじや大夫たいふたちが騒さわぎ始めた。　

人物一覧表（大連、大夫たち）

ちね「大王おおきみ！　見たいって、もう、見てるやないですか！」　

イク「えっ？」　

オーカ「エピソード484を忘れたと？」　

武日たけひ「じゃがそうです。本文ほんぶんと別伝べつでんで、数かずが違ちがうと解説されちょるじ！」　

くにお「本文では、七つであったな？」　

カーケ「その通りなんだぜ。」　

本文による天日槍の宝

①羽太はふとの玉たま
②足高あしたかの玉たま
③鵜鹿鹿うかかの赤石あかいしの玉たま
④出石いずしの小刀こがたな
⑤出石いずしの桙ほこ
⑥日鏡ひのかがみ
⑦熊くまの神籬ひもろき　

オーカ「別伝では、八つになっておりますぅ。」　

カーケ「その通りなんだぜ。」　

別伝による天日槍の宝

①葉細はほその珠たま
②足高あしたかの珠たま
③鵜鹿鹿うかかの赤石あかいしの珠たま
④出石いずしの刀子かたな
⑤出石いずしの槍ほこ
⑥日鏡ひのかがみ
⑦熊くまの神籬ひもろき
⑧胆狭浅いささの大刀たち　

イク「でも、あのときは、受け取らなかったでしょ？」　

ちね「欲しなったほしくなったんですか？」　

イク「金印きんいんには、劣おとるかもしれないけど、宝物には、変わりないからね。」　

ちね「金印きんいんのこと、引きずってたんかい！」　

くにお「金印きんいんとは、如何いかなることじゃ？」　

武日たけひ「エピソード605で、解説したんや。」　

イク「と・・・とにかく、多遅摩たじまに使いを送るように！」　

こうして、使者が派遣されたのであった。

使者となったのは、三輪みわの君きみの大友主おおともぬし（以下、オート）ということにしたい。

系図（三輪氏：オート）

そして、多遅摩たじまでは・・・。

地図（多遅摩）

オート「多遅摩日楢杵たじま・の・ひならきこと『ラッキー』殿ですな？」　

ラッキー「エピソード487以来の登場ハセヨ！」　

オート「して、大王おおきみが『玉津宝たまつたから』を納めたいとのこと・・・。急ぎ、宮みやに参内さんだいしていただきたいのですが？」　

ラッキー「それが・・・我われは、今回で引退になってるハセヨ。」　

オート「えっ？」　

ラッキー「ということで、息子の清彦きよひこを紹介するニダ。」　

清彦きよひこ「わたしゃぁ（私は）清彦。『日本書紀にほんしょき』の記述に従したがって、私が行くんだわいや。」　

系図（ラッキー、清彦）

オート「よろしく御願い致します。」　

清彦きよひこ「任まかせて欲ほしいんだっちゃ。」　

こうして、清彦きよひこが向かうこととなった。　

次回につづく