JW178 導かれし者たち
【孝霊天皇編】エピソード33 導かれし者たち
第七代天皇、孝霊天皇(こうれいてんのう)の御世。
すなわち、紀元前246年、皇紀415年(孝霊天皇45)。
孝霊天皇こと、大日本根子彦太瓊尊(おおやまとねこひこふとに・のみこと)(以下、笹福(ささふく))は、暴れまわる鬼(賊)を鎮定するため、遠征に赴いた。
遠征の地は、現在の鳥取県西部、伯伎国(ほうき・のくに)である。
そして、前回は、大倉山(おおくらやま)での戦いを紹介させてもらった。
あれから後のことか、それとも前のことか、5月を迎えようとする季節。
ヤマトの地で、新たな騒動が巻き起ころうとしていた。
渦中の人、日嗣皇子(ひつぎのみこ)こと大日本根子彦国牽尊(おおやまとねこひこくにくる・のみこと)(以下、ニクル)が困惑の表情を浮かべる。
ニクル「お考え直しくださりませ。」
ニクルの面前には、生母、すなわち、大后(おおきさき)の細媛(くわしひめ)(以下、細(ほそ))がいる。
細「わらわは、決めたのです。」
ニクル「勝手なことを申されても困りまする。」
細「されど、わらわは会いたくなったのです。」
ニクル「大王(おおきみ)に会いたいという、お気持ちは分かりまするが・・・。」
細「日嗣皇子? わらわが、いつ、大王に会いたいと言いましたか?」
ニクル「なっ? で・・・では、兄上(鶯王(うぐいすおう))にござりまするか?」
細「いいえ。わらわが会いたいのは、朝妻(あさづま)殿です!」
ニクル「母上・・・いえ、大后・・・。そこは、伝承に遵(したが)いて、大王を、お慕いしてと申していただかねば困りまする。」
細「良いではないですか。同じことです。」
ニクル「お・・・同じではないような・・・。」
細「とにかく、わらわは、朝妻殿に会いたくなったのです。大王が、お慕いになられた女人(にょにん)が、どのような御方なのか、見てみたくなったのです。」
ニクル「されど、大后は身重(みおも)にござりまするぞ。旅先で、何か有っては一大事にござりまする。」
細「安心しなさい。わらわの身の周りを世話する者を随(したが)えて参ります。」
ニクル「み・・・身の周り?」
細「彦五十狭芹彦(ひこいさせりひこ)こと芹彦(せりひこ)の妻、百田弓矢姫(ももたのゆみやひめ)です! 『ユミ』とお呼びなさい。」
ユミ「はぁぁい! アタシも行くことになりましたぁ!」
ニクル「伝承には登場せぬが、ユ・・・ユミ殿は、芹彦兄上を慕って参られるのですな?」
ユミ「えっ?! 分かっちゃいましたぁ? 分かっちゃいますよねぇ? (〃▽〃)」
細「ユミは、夫と離れ離れで、寂しいのです。わらわには、痛いほど、その気持ちが分かります。」
ユミ「大后! 分かってくれます? ホント、寂しいってもんじゃないんですよぉ。」
細「そうですね。時折、悔しい気分にもなるのは、なにゆえでしょうね?」
ユミ「あ! 分かります。その気持ち! なんで、汝(なれ)だけ楽しい想いしてんのよって。」
ニクル「さ・・・さりながら、オミナ(女)だけでは、心もとないのでは?」
細「安心しなさい。わらわの父上も同行致します。」
ニクル「大后の御尊父・・・磯城大目(しき・の・おおめ)にござりまするか?!」
大目「そうなんじゃほい! わしも付いて行くことにしたんで、大目に見てほしいんじゃほい!」
ニクル「汝(いまし)も伝承には登場せぬではないか! それに、汝は大臣(おおおみ)ぞ? ヤマトは如何(いかが)致すのじゃ?」
するとそこに、もう一人の大臣、物部出石心(もののべ・の・いずしごころ)(以下、いずっち)がやって来た。
いずっち「日嗣皇子! 心配せんでもええがな。わてが、なんとかして参りますぅ。」
ニクル「な・・・なんとかと申してもじゃな・・・。」
いずっち「わての息子も警護役として、同行させますよって、それで勘弁しておくれやす。」
ニクル「汝(いまし)の息子? 大水口宿禰(おおみなくち・のすくね)こと『みなお』か?」
みなお「せやで! わしも行くことにしたんや。」
ニクル「汝(いまし)も伝承に登場せぬではないか!」
みなお「せやけど、夜間警護も大切やろ?」
ニクル「た・・・確かに、宿禰とは、夜間警護の役目。さ・・・されど・・・。」
細「どうしたのです?」
ニクル「それでは、我(われ)の夜間警護をする者がいなくなりまする。もう一人の宿禰、大矢口(おおやぐち)こと『ぐっさん』は、大王と共に伯伎に赴いておるのですぞ!?」
細「安心しなさい。新たな宿禰(すくね)を任命すれば良いことです。」
ニクル「新たな宿禰?」
細「では紹介します。葛城垂見(かずらき・の・たるみ)ですよ!」
垂見「垂見にござるよ。エピソード151以来の登場にござるよ。よろしく・・・でござるよ。」
ニクル「確かに『古事記(こじき)』において、垂見宿禰と書かれておるが・・・。」
垂見「そうでござるよ。垂見宿禰と書かれておきながら、いつ就任したか書かれてないんでござるよ。そこで、これを機に、宿禰に就任したというわけでござるよ。」
ニクル「作者の妄想と申すか?」
垂見「妄想というよりは、何かの『きっかけ』が欲しかったんでござるよ。」
みなお「ほな、垂見。日嗣皇子のこと、頼むでぇ。」
垂見「任せてほしいんでござるよ。」
細「そういうことで、わらわは、伯伎に向かいます。」
ニクル「しょ・・・承知致しもうした。身重のまま赴かれたと伝承に書かれておりまするゆえ、これ以上、お止めすること能(あた)いませぬが、くれぐれも御無理は、なされませぬよう・・・。」
細「分かっております。安心しなさい。」
こうして細媛は、ユミ、大目、みなおを引き連れて、笹福たちのいる伯伎に向かったのであった。
つづく
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