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【書評】こんなんいかが?

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忘れた頃になんども読み返す愛すべき紙の束。カバーについた手指の脂、紙の匂いと手触り。それはともに過ごした時間の記憶。本はもはや生きもの。
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#文学

「装いせよ。我が魂よ」果敢にしてオトコマエな小川洋子と山田詠美。魂が美しくあるには、装いこそ必要。

「装いせよ。我が魂よ」果敢にしてオトコマエな小川洋子と山田詠美。魂が美しくあるには、装いこそ必要。

「文学は懐が深い。テーマにならないものはない」
 作家の小川洋子さんはそう言い切る。それでも自身、苦手な分野があるといいます。
 それが「性・官能」をモチーフとする分野。
 
 なるほど、上品なイメージがある彼女の作品。でもそれとは裏腹に、弟の肉体を密かに慕う姉だったり、妊娠した姉に殺意を抱く妹だったりと、書くテーマは禁断領域に軽々と踏み込んでいます。
 透明感をまとった穏やかな言葉遣いに身を任せ

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「うまくいっている」時、恐るべき退屈の大穴が待ち受けている。沢木耕太郎編「心に残る物語ー日本文学秀作選 右か左か」

「うまくいっている」時、恐るべき退屈の大穴が待ち受けている。沢木耕太郎編「心に残る物語ー日本文学秀作選 右か左か」

 物語を書くっていうのは、とつとつと湧き出すように出てくる言葉を、湧き出すまま書きつけているのだと思っていました。

 そのうち、小説といってもそれは書き手が意図する入念なる計画の下に数々のパーツを組み合わせて作りだした「言葉の建物」だと知って、書くのはたいへんなことだとさらに思いながらも、人間の作る「作りもの」であるには違いないと、何か落ち着いた気持ちにもなったのでした。

 物を作るというのは

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「恋」を正面切って哲学する。その匂い立つような言葉のほとばしり。学術書なのにとんでもなくスリリングでドキドキ。そのワケは。

「恋」を正面切って哲学する。その匂い立つような言葉のほとばしり。学術書なのにとんでもなくスリリングでドキドキ。そのワケは。

『なぜ、私たちは恋をして生きるのか』宮野真生子(ナカニシヤ出版) 

著者の切実な思いが現れた学術書

 最初、なんともベタなタイトルの本だと思いました。これではちょっと部数が出ないんじゃないかと。でも、戦前からの著名本、九鬼周造の『いきの構造』を採り上げながら、とあるから読んでみたら、なぜ出版社がこのタイトルにしたのかがわかった気がしました。

 副題に『「出会い」と「恋愛」の近代日本精神史』と

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