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円滑な人間関係を作る大切なコツ【魔法の4秒】11

 友人兼同業者のジムとは、1年ほど会っていなかった。ジムにとっては苦しい1年だった。事業がうまくいかず苦戦するジムに、ぼくはまめに電話するようにしていた。
 そんなとき、「助けると思って、クライアントのエドにちょっとだけ会ってくれないか」とジムに頼まれたので、ぼくは承知した。

 ところが数日後にエドのオフィスを訪ねると、エドは国外に出張中ですと受付係に言われた。昨日、おいでをお待ちしていましたが、いらっしゃらないのでがっかりしていましたという。ぼくは謝って退散した。
 ぼくはすぐさまジムに電話した。ジムがメールをチェックしてみると、彼がエドに間違った日を教えたことがわかった。おかげで恥をかいたよとぼくは言い、エドに手書きの手紙を送って謝罪し、手違いが生じた理由を説明しておけよと言った。ジムはそうすると約束した。
 だがそれきり、行き違いになった会合の話は出なかった。ジムとの話題はもっぱら、彼の事業がどんなに苦しいかということだった。

★★★

 あるとき、ぼくは1週間後に会議でスピーチをすることになり、エドにも出席してもらいたいと思った。そのためには例の件がどう解決したか知っておきたい。パーティーでジムに会ったので、手紙は書いたかと聞いてみた。
 するとジムは激昂し、突っかかってきた。

「手紙なんて書いてない。ピーター、うちの会社がつぶれたんだ。ぼくには1分だって余分な時間なんかないんだ。それがわからないのか?」

 ぼくは唖然とし、ショックを受けた。口の中でもごもご言ってその場を立ち去った。どうしてぼくが突っかかられなきゃならないんだ?
 じっくり話し合えばどんな問題でも解決できるというのが、昔からのぼくの信条だった。そこでまたジムのところへ戻った。

 「ジム、大変な1年だったのはわかるが、どうしてぼくに突っかかるんだ? 手紙のことを聞いたのは、会議でエドに会う可能性があるからだ。手紙そのものは大した問題じゃない。でもきみの態度はショックだったよ」
「そうかい」
 ジムはそう答え、続けた。

 「ぼくの態度がショックだったんならおあいにくさま」

★★★

 人に頼みごとをしておいて恥をかかせたくせに、謝ろうともしない。手紙を書かなかったことも、あんな態度をとったことさえ謝ろうとしない。ただ、自分の態度にぼくがショックを受けたと認めただけだ。ぼくはますますショックを受けた。

 どういうことか、頭では理解できた。会社がつぶれるなんてさぞかし衝撃だろうし、大変なストレスだろうし、どんなにか苦しいだろう。
 そう考えると、手紙は書いたかというのは些末な、空気を読まない質問だったという気がしてきた。加えて、ジムは約束を守らなかったことを恥じていて、そのせいでぼくに八つ当たりしたのだろう。

 頭ではわかる。しかし気持の面では、この1年というもの、ジムを応援しようといろいろしてやったのに裏切られたような気がした。そして思った。

 次はどうする?

 もう一度ジムと話し合ってみることもできるが、どうせ今度も同じ結果になって自分がいっそう傷つくのはわかりきっていた。ジムとの一件をみんなにふれまわって、どう思うかと聞いたり愚痴ったりすることもできる。だがそういう人間にはなりたくなかった。
 ジムを完全に切り捨ててしまうこともできる。しかしふたりとも同じ業界にいるので、お互いを避けるのは難しい。ジムと同じ部屋に居合わせるたびに、ネガティブなアドレナリンが昂進するようなことにはなりたくなかった。

 それに、誰かの行動に傷つくたびに相手を切り捨てていいのだろうか? 傷つきやすいぼくのことだから、しまいにはひとりも友達がいなくなってしまうかもしれない。最後に、おそらくこれがいちばん肝心なことだが、ぼくは心からジムが好きだった。20年来のいい友達で、一緒にいて楽しい。ユーモアがあって退屈させず、人情もあるやつだ。ジムとの友情を失いたくない。
 そのあとは、パーティーにいても居心地が悪かった。ぼくは暗い気持で会場を去った。どうしたらいいのかわからなかった。
 とうとうぼくは、誰より賢いアドバイザーに電話した。

★★★

 ぼくの母は、彼女を愛する人々に囲まれている。
 最近本人に聞いたところでは、以前、母を裏切った前科のある男性といまも付き合っているという。その男性は、母が譲ってもらう約束だったレアアイテムを母に内緒で買いとろうとした。売り手は母との約束を守った。その後も母は売り手とも、そして裏切り者とも付き合いを続けている。
 どうしてそんな仕打ちを許せるのか?

「あの人のやりそうなことは見当がつくわ」
 母は裏切り者についてそう言った。
「そういう人なのよ」
「その件で彼と話したことはある?」
「いいえ。話す必要ないでしょう? 話したからって何も変わらないわ。私が彼を変えられるわけじゃなし。その話をしたからって状況が変わるわけじゃなし」
「でも、そんなことがあったのによく付き合っていられるね。相手の顔を見たら腹が立ってこない?」
「誰かに嫌な思いをさせられるたびに怒るのには飽き飽きしたのよ。まわりじゅうの人と疎遠にはなりたくないからね。彼のほかのところは好きなのよ。ただ、そういうことをする人だってこと

 母は賢し、だ。そんな母のアドバイスはひとつ。

 そういう人だと思って受け入れなさい、だった。

 ジムがあんな態度に出た原因は、ぼくにあるのではなく、ジム自身にある。いまのぼくのスタンスは、二度とジムと口をきかないわけでもなく、かといってジムと話し合って問題を解決しようとするわけでもない、というものだ。
「ありのままの相手を受け入れる」スタンスといってもいい。

★★★

 ジムの反応は、ジムがどういう人間かを教えてくれた。ジムは、相手を威圧したり避けたりしたいとき、わざと突っかかったり怒ったりしてみせるという評判だった。ただ、これまではぼくに矛先を向けたことがなかったというだけだ。
 こういう性格もひっくるめてジムという人間なのだ。今後、人が変わることもないではないかもしれないが、期待はしないつもりだ。

 ジムとのやりとりからぼくはデータを得た。今後はジムのどういうところに気をつけるべきかというデータである。

 ジムだって、いつもぼくに突っかかってくるわけではない。彼のどういうところに気をつけるべきかを知っておけば、ジムの好ましくない側面に惑わされることなく、好ましい側面を楽しむことができる。幻想をもたずに、ありのままのジムを丸ごと受け入れることができる。もしもジムが不愉快な態度に出たら、とばっちりを食わないよう身を守ることもできる。

★★★

 あのとき、ぼくはどうすればよかったのかと考えてみた。手紙を書いたかどうかはやっぱり聞くと思うが、ジムが突っかかってきたらこう言うだろう。

「大変な一年だったのはわかるよ。会社がそんなことになって気の毒だったな。手紙を書かなかったのも無理もないと思うよ。聞いておいてよかった。来週、会議でエドに会うかもしれないから」

 それだけだ。ショックもない。怒りもない。ジムを避けることもしない。陰湿な仕返しもしない。いまの状況を、そしてジムという人をありのまま受け入れるだけだ。
 今後、ジムとの関係はうわべだけのものになるだろうか? 最初はそうなるほかないと思っていたが、そうならないよう努力するつもりだ。

 人間は不完全な生き物だ。

 母を裏切った男性もそうだし、ジムもそうだし、ぼくだってそうだ。だからこそ、ジムを切り捨てないことが大事なのだ。ジムを切り捨てれば、いつかは自分のことも切り捨てるはめになるかもしれない。ジムの欠点を許すことで、自分の欠点も許せるようになる。
 そして、話し合いでは解決できない状況もあるんだという事実を受け入れることもできるようになる。誰かに傷つけられたり期待を裏切られたりすると、相手を切り捨てたいという衝動に駆られるかもしれないが、そこをぐっとこらえよう。

 たいていの場合、相手はあなたを裏切ろうとして裏切ったわけではない。自分の問題で手一杯の、完璧ではない人間だというだけだ。
 相手と相手の欠点をありのまま受け入れよう。いつまでもこだわっているのはやめよう。

★★★

『魔法の4秒』
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