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NZ life|浮気は砂糖のようにあまい

ニュージーランド29日目。
天気、曇りのち晴れ。気温15度。今がどの季節なのか、私にはもうわからない。

今日はお休み。一週間に一度のお休み。朝から張り切ってご飯を食べた。お休みの日のご飯は、いつもより美味しい。

今日はどこにいくの?と聞かれた。何も考えていなかった。私にとってお休みって、お出かけというより「頭の中や身の回りを整理する日」の方がしっくりくる。いつもより多めに散歩したり、いつもより多めに考え事したり。

近くにいい散歩スポットあるよ、と教えてもらったので、お昼から晴れたら行こうと思う。雲はまだ厚い。


朝ごはんを済ませたら、洗濯をした。今日のために張り切って汚れてくれた洗濯物を、張り切ってきれいにしていく。

あれこれ家事を済ませているうちに、近くのスーパーが開店時刻を迎えた。お休みの日の楽しみとして、夢中になっているクッキーを買いに行く。あとコーヒーも欲しい。人生には、コーヒーを飲む時間が必要だからね。


いつもより早めに家を出たので、通りには誰もいない。裸足で登校するキッズたちはまだ、ベッドの中で温もりに包まれているのかもしれない。

スーパーに向かう途中、いつものカフェをちらっと覗いた。相変わらず賑わっていて、いかにも早起きが好きそうなお客さんたちが、朝特有のフレッシュさで楽しそうにコーヒーを飲んでいる。

神様もいた気がするけど、今ここでフラットホワイトを買うわけにはいかない。サッと通り過ぎる。なぜなら、そう、私は今日、浮気をするのです。


スーパーに行くたびに気になっていたのが、店内の一角にある小さなカフェ。

スーパーなのに、いつもコーヒーのいい匂いがするなあとは思っていたけれど、なるほど、ここか。と、目星をつけていた。お客さんも常に並んでいて、なかなか人気らしい。気になるのは仕方のないことです。

クッキーを買いに行くのは、本当はコーヒーのついで。むしろ、言い訳かもしれない。だって「コーヒーを買いにスーパーに行こう」だなんて、それって、もう、ただの浮気だもの。

実を言うと、今朝、目が覚めた時から「浮気をしてしまおう」と強く心に誓っていた。神様ごめんなさい。罪深い私をどうか許して。


そんなわけで身を隠すようにカフェの前を通り過ぎ、スーパーに向かった。いつも気怠そうに商品を並べるレディに「ハーイ」と言われた。いいな、私も気怠げに商品を並べてみたい。

クッキーの他に何かいいものないかな、と店内を物色する。開店したばっかりのせいか、お客さんは少ない。

来る度に見かける、いつもハーフパンツを履いている店員さんとすれ違った。彼はいつ見かけても、気怠そうに何かを飲みながら「STAFF ONLY」の扉を抜けて、店内裏に消えていく。ここの人はみんな気怠そう。朝だから?


クッキーをカゴに放り込み(いつものと、いつもとは違うのを1つずつ)、レジに向かう。店員さんがトナカイのようなカチューシャをつけている。そっか、クリスマス。私には全然関係のないものになってしまった、夏のクリスマス。

レジのトナカイさんには気怠げな雰囲気はなく、チャキチャキと働いていて感心した。チャキチャキした接客って素敵ね、ありがとう。


お買い物を済ませて、さあいよいよ!浮気のお時間です!

お店の端っこにあるカフェに向かうと、誰もいない。はてさて。カフェはまだだったかな。なんて思っていると、先ほどの気怠けレディが「コーヒー飲む?」と聞いてきた。ああ、兼任なのね。


フラットホワイトください、ラージサイズで。

合言葉みたいに親しみのあるフレーズを伝えた時、心のいちばんやわらかいところがチクリとした。なんだか浮気をしているみたい。いや、しているんだけれど。

気怠げレディは、さっきまでの気怠そうな雰囲気を一瞬で振り払い、パッと明るい笑顔で「待っててね」と答えた。気怠いのは、商品を並べる時だけなのかもしれない。チャキチャキとエスプレッソマシンを捌き、スチームミルクを作り始めた。


シュガー、いる?


不意に訊かれた。私は知っている。いつだって浮気の現場には「砂糖」があることを。砂糖の数を間違えるから、ひとは浮気がバレるのだ。フラットホワイトに砂糖なんて入れたら、私の浮気もバレてしまう。丁重にお断りした。

いつの間にか店内裏から帰還したハーフパンツの彼が「はい、お釣り」とコインを渡してくれた。小銭、苦手だなっていつも思う。外国に来るたびに私はお釣りのコインと戦っている。

出来上がったフラットホワイトを受け取り、気怠けペアに「またね」と伝えると、二人ともとびきりの笑顔で「じゃあね」と言ってくれた。まぶしい。


スーパーの前にあるテラスでフラットホワイトを飲む。
ミルクのやさしい甘さが、胸いっぱいに広がる。

あれ、フラットホワイトってこんなに優しい飲み物だったっけ。

砂糖を入れていないはずなのに、なぜだか甘い味がした。
神様はどこからか見ているのかもしれない。

今日も生きようね。


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