神聖な道を歩き、足を磨く(田中雅也/アントクエステート代表)
2013~2023年に日本ユニストに在籍し、不動産事業部を率いてきた田中雅也さん。紀伊路SCAPEの始点となる熊野古道事業を支えてきた田中さんに、2023年1月に紀伊路を歩いた思い出を振り返っていただきました。
――田中さんは不動産事業の責任者でありながら、日本ユニストの熊野古道事業にも長く携わってきました
不動産の経験を生かして物件を探した上で、建築関係の調整をして、宿をつくってきました。熊野古道事業が始動するまでは現地に行ったことはなかったのですが、奈良の大峯山という霊峰に幼い頃から参拝していたので、信仰の対象となっている山を登り、お参りすることには馴染みがありました。
――紀伊路ではどの区間を歩いたのですか?
湯浅から御坊までを歩きました。紀伊路の全行程でいうと、5~6日目くらいに当たる区間です。黒竹の杖をつきながら、2日間かけて岩代王子を目指しました。
印象的だったのは、塩屋王子近くで峠を越えたとき、急に視界が開けて目の前に海が広がった光景ですね。日本ユニストが運営する宿泊施設「SEN.RETREAT」がある中辺路はずっと山の中を歩くので、海が見えるのは開放的で気持ちよかったですね。
山道が多い中辺路と違って、紀伊路は集落や郊外の街中を通る生活道路が多い。何てことない普通の道に見えても、昔から多くの人が熊野を目指して歩いてきた道だと思うと、「ちゃんと踏みしめて歩かないと」と気が引き締まりました。
「この街は長い時間をかけてどう変わっていったんだろう?」と考えながら歩いていると、「この土地や道について詳しく知りたい」という思いが強くなりましたね。
――他に、思い出に残っている瞬間はありますか?
最後のゴールが海岸だったのですが、砂浜に寝転がって眺める夕陽が綺麗だったことです。疲労感も相まって、砂の上に身体を横たえるのはとても気持ちよかった。サウナに入って得られる気持ちよさを“ととのう”と言いますが、紀伊路を歩き終わったときは、間違いなくサウナとはまた別の“ととのう”感覚がありました。
登山はゴールにたどり着いたときの達成感が気持ちいいですが、修験道や参詣道はスピリチュアルなパワーやありがたみも加わって、更に良いんですよ。車や観光バスで熊野三山に参拝する方もいますが、神聖な道の上を歩くと足が磨かれて、心身が清められる感覚があります。これはぜひ多くの人に体験してほしい。
――田中さんが道中で曲がった看板を、何も言わずに直していた姿が印象的でした
自分では全然覚えていないです(笑) でもきっと、紀伊路を歩く中で自然とそういう行いをするマインドになれるんでしょうね。
大阪市内にも紀伊路は通っていますが、普段歩いている道がそういう歴史ある道であり、僕らの生活は歴史の上に成り立っているということは紀伊路の旅が終わってから意識するようになりましたね。だからこそ、多くの方に紀伊路のことを知ってもらい、歩いてほしい。
――これから始動する紀伊路SCAPEに対して、期待することをぜひ教えてください
大きいところで言うと、日本を変えてほしい。今は知名度が低い紀伊路が、日本を代表する“観光道”・“観光路”になってほしいですね。
歴史的な場所や世界遺産は色々あるけど、その中でも実際に自分の足で歩いて、全身で感じて触れられるところってなかなかないから、それが紀伊路の価値でもあると思います。
あとは小さいところで言うと、山中ではなく人里を歩く旅なので、地元住民の方とのコミュニケーションがあったら素敵ですよね。
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