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恋なら、みずから落ちに行け。

22歳のころ、美しい恋がしたいと思っていた。意中の相手を美しくデートに誘って、美しく恋に落ちて、美しい恋人関係になりたかった。

でも、

人並みのそんな経験もなかったし、意中の相手もいなかったし、美しいデートの誘い方も分からなかった。

22歳と言えば、この日本社会では新卒1年目の年齢にあたるが、当時の私は日本社会のレールに乗っていなかった。ダメダメな大学生で、バイトばっかりしていたのだ。このころ、自分が何年生なのかもたぶん分かっていなかった。


だけど自負はあった。

誰よりも自分に根拠のない自信があって、誰よりも深く、深く物事を考えている、そう思い込んでいた。いま思えばそんなことはないんだけれど、ある種の万能感をもって生きていた。


今日は、そんなころの「」の話。




22歳で人生の何かを変えたくて、アルバイトを変えた。小さな変化。選んだのは眼鏡屋さんだった。オープニングスタッフだ。私を含め、20人の若い男女が集まった。勤務地は札幌駅。

その中に18歳の女の子がいた。

私の4歳下。大学1年生。

きっとお化粧は覚えたて。

おでこにのったファンデーションの粉を見て「あぁ、なんて若いんだ」と思ったことを今でも覚えてる。彼女はいつもニコニコして一生懸命に接客をしていたのだが、そのあいま、

「〇〇さん、怖い話、してください」
「〇〇さん、あたしをぜったい笑わせてくれる話ありますか」
「〇〇さん、いま店内でかかってる洋楽って、だれの、なんて曲なんですか?」

よく聞かれた。
小悪魔的だ。ニコニコして。


が、私は全然相手にしていなかった。だってお子様だ。彼女は、なんなら私の2人の妹より歳下だ。まるで相手にならない。コナンにとってのあゆみちゃんだ。

彼女からいろいろ聞かれるたびに、私は全てにフルスイングで答えた。全部ホームラン。

彼女はいつも笑って「引き出し多すぎませんか」と感心してくれた。もし、あの時の私の顔を録画してたとしたら、恥ずかしくて見てられないと思う。



ある夜、理由は忘れたが、1人で映画『タイタニック』を見ていた。レオナルド・ディカプリオ演じるジャックと、ケイト・ウィンスレット演じるローズの2人。あの沈むやつ。寒そうなやつ。

『タイタニック』のあるワンシーン。主人公のジャックが、ヒロインのローズを呼び出すシーン。ジャックが食事中に、秘密のメモをローズに渡すシーンがある。



そのメモにはこう書いてある。

Make it count! Meet me at the clock! 
-今を大切に! 時計のところで会おう!



これを見た時、
私はヒザをピシリと叩いて思った。


「これだ!!!!」


22歳のころ、美しい恋がしたいと思っていた。意中の相手を美しくデートに誘って、美しく恋に落ちて、美しい恋人関係になりたかった。


「美しいデートの誘い方」はこれだ。


「意中の相手」は?


頭に浮かぶのは1人しかいなかった。

私が全然相手にしていない、あの18歳の女の子。正直に言えば、彼女に恋をしているわけではない。なんなら彼女に転がされてるきらいすらある。けれども、もしも誰かを誘うならあの子しかいない。


あの子と恋に落ちるのか?

分からない。でも、楽しく生きたい。

あの子なら、きっと楽しい。



私がお休みで、彼女が出勤の日。私は札幌駅のアルバイト先に行った。胸をドキドキさせて。


他の同僚には極力見られない場所で彼女に話しかけた。



「やあ」



普段着の私を見るなり、4歳下の彼女は言った。


「あ、〇〇さん!どうしたんですか?」

「うん、細かいことは一旦おいて、
 今夜、ご飯に行くんだ、俺」

「は、はあ」

「夜、あいてる?」

「え、あ、18時に終わってからは
 特に予定は何もないですけど」


「なら、一緒に行こう」


「えっ、ご飯ですか?」


「うん。バイトが終わったら、
 このメモを見て。そして連絡してね」

「え、電話番号、いいんですか?」


レオナルド・ディカプリオだ。

ケイト・ウィンスレットだ。

タイタニックだ。

彼女はニヤニヤしている。小悪魔的だ。

その場でメモを書いて渡した。

080-××××-××××
終わったら、ここに電話を。

「それじゃ」


「わ、わかりました!」


困惑と笑顔が半々、はにかんだ彼女を尻目に、私はテコテコとその場を去った。



……


(っぷはーーー、ドキドキした!)

(誘っちゃった!渡しちゃった!)

(なんだよ『それじゃ』って!)

(きっもーーー!!!!!)

ここまでを読むと、市川團十郎も舌を巻くプレイボーイ感が出ているかもしれないが、そんなことはないと断っておく。22歳当時の私は美しい恋愛をしたかった。プレイボーイでもなんでもない。なぜなら、モラトリアムをこじらせすぎて、友だちはおろか恋人すらいない大学生活を送っていたからだ!




18:00ちょっと過ぎ。

季節は秋で、少し肌寒い。

普段着の彼女なんて見たこともない。




彼女から電話が来た。

本当に来た。



で、2人でお店に行った。

札幌市内の大通地区にある場末の居酒屋に。

少なくとも22歳の大学生がおよそ行きつかないような、渋いお店に行った。高くもなく、かといって安すぎもしない。「お茄子の揚げ浸し」「富良野産アスパラの天ぷら」が出てくるような、そういう居酒屋。



居酒屋でご飯を食べながら、何を喋ったか、今となっては覚えていない。細かなことは一切覚えていないけど、楽しかったことだけは覚えてる。

心から楽しかった。

いや、いま思えば、キモいなぁとは思う。だって4歳下だ。今の妻が私の4歳上だから、だいぶ違うじゃないか。あぁ、ひどい、キショい。でも記事を続ける。



お店から出て、帰路に着こうと歩いてると、外は小雨が降っていた。傘をさすかどうか迷うレベルの小雨である。美しさを第一に考える私は、ヘラヘラしながら彼女にこう言った。



「イギリス人はさ、このレベルの雨じゃ、
 傘ささないからね」



イギリスに行ったこともないのに。でも、ビートルズが好きだし。きっと、紳士はこの程度じゃ傘をささないのだ。いや、多分さすだろ、傘。





イメージだけでそう言って、私は颯爽と雨の中を歩いた。秋の札幌、小雨の夜、曜日は忘れた。






すると、彼女はこう言った。





「でも、ここ日本ですよ」




……

たしかに。


うん、それはそうだ。


万事休すか? と思ったが、大丈夫だった。


2人でニヤニヤした。


もはや、なにが大丈夫だったのかも分からん。




数ヶ月後、彼女と私は、落ちることになる。

どこに落ちる?

に。

そして4年間付き合うことになる。

むかし紹介した、以下の記事に
登場する彼女である。



22歳のころ、美しい恋がしたいと思っていた。意中の相手を美しくデートに誘って、美しく恋に落ちて、美しい恋人関係になりたかった。


それを叶えた。


付き合って4年後、彼女は真っ赤なルージュがよく似合う大人の女性になり、私は、聞くも涙、語るも涙な別れ話を、なぜか名古屋でされるのだが、それは別のお話。恋愛は難しいなぁ。



お付き合いをしている時よく話していた。


「こんな恋愛をして、もし別れたら、もう日本人とは付き合えないから海外行くしかないね」


彼女は今、本当に海外にいる。

連絡先はもう知らない。

幸せであることを願ってる。


現実の恋は、映画のように美しく、完璧なロマンスではない。が、美しさやロマンスを求めてもいいと思う。たとえ私たちが何歳になっても。


だから、若い独身男性諸君、

恋には、みずから落ちに行け。

ゆけ、誘え、好意をもて。
よく学び、実践し、女性をもてなせ。

挑戦し、恥をかけ。

それが出来るうちに幸せな女性を増やせ。



恋はいつまでも盲目なのである。

(これ、妻に見られたら、終わり☆)

〈あとがき〉
この記事の内容を端的にまとめれば、22歳のプー太郎大学生が18歳の乙女をひっかけて、それで付き合いました、でも今は別れてます、っていう、誰にでもあるお話です。しかし、その根底に美学みたいなものが流れれば、チープなお話もなんだかロマンに溢れるものになるって感じでございます。いや、ロマンはないかなぁ。今日も最後までありがとうございました。

▶︎誘う理由がない、とか言ってる場合じゃない


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