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季語哀楽

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季語をテーマにした投稿まとめ。 365日が目標。
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2021年1月の記事一覧

雪折

雪折

ふわふわと舞い降りる雪も、日本海側の湿った気候では、一日もすれば固く締まってザラメになってしまう。
その荷重が想像以上であったのは、前回の教訓より。

今年は、市内でも1mを超える大雪で、これは約35年ぶりの積雪らしい。街では、あちらこちらで、フェンスやガレージが倒壊しているのを見た。
やはり、自然の力は雄大である。

このような事態から大切な樹木を守るのが、雪吊だ。芯柱から枝を吊り、傘のように縄

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寒椿

寒椿

硬く肉厚な葉は、多少の雪なんて跳ね除けるほど丈夫で艶やか。黄色の花心を包み込む、鮮やかな赤が寒空に映える。
そして、淡雪の残る、苔むした地面にぽとりと落ちる様。

それは首が落ちるようで、武士に嫌われていた、というのはどうやら俗説らしい。
寧ろ、それが潔いとした派もあるようで、私は後者に一票である。

最期まで、綺麗で居たいじゃないの、
むしろ、落ちてからも。
それが絵になる。

私は静かに心のシ

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寒卵

寒卵

新しい季語を知る時、概ね知っている漢字同士の組み合わせなのに、それらが隣り合うことで持つ壮大な意味に感嘆する。

私は歳の割には、記憶の引き出しが多い方だと思っている。田舎育ち、祖父母同居だった特権である。しかしながら、家で鶏や蚕なんかを飼ってはいなかったし、例えば今朝産みたての卵の暖かさなんていうのは、実際に知りようがなかった。

それでも、文字を通して想像し、
言葉は私の一部になる。

冷蔵庫

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冬薔薇

冬薔薇

吐く息も白い冬の記念日に、私は彼の歳の数だけ、深紅の薔薇を送る。

彼はミュージシャンだ。

彼の創る曲は、激しいギターリフのロックや、怪しげなポップチューンと型にはまらない面白さを持っている。それでいて、美しく繊細な心理描写と、どこか儚く切ないメロディ。

その孤独と才能に、私は知れば知るほど惹きつけられ、彼と彼の音楽を心から愛した。

彼のイメージは、薔薇なんて気取ったものではないのだけれど、

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室咲

室咲

本来は春に咲く花を、室内などに取り入れて開花を早めること、またその花自身のことを「室咲」と言うそうだ。昔は、字面の通り室に火を焚いて行っていたらしい。自然の摂理に逆らってでも、なんとか花を愛でたいと思う心理は、古来よりあったのだなあと、この言葉の起源を想う。

しかし現代では、花も野菜も、多くのものが季節に関係なく手に入るようになった。旬がいつなのかも曖昧になってしまう程に。

自分自身もそうだ。

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寒紅

化粧とは、仮面であり、武装である。それでいて、大切な御守りであり、また自己表現の一つでもある。
昨今、女性の在り方に、問題提起がされて久しいが、この多様性の時代、選択肢こそが正義だと私は思っている。

外は寒い。一面に広がる銀世界の中、私は唇に真っ赤な紅を差し、表へ繰り出した。

その意味は、私が決める。

寒紅(かんべに)

蝋梅

蝋梅

初めて蝋梅の花を見た時、その半透明で繊細な造形に目を奪われた。あまりに精巧な風情は、植物と言うより、もはや蝋細工の工芸品の様でさえある。さすが、蝋梅とは上手い名前をつけたものだと、感心してしまう。

蝋引き紙のしっとりとした質感を指先が思い出す。花びらに触れて終えば、端から溶けてしまうのではないかと憂えてしまう程に。

冬は庭の色味が寂しいから、
と素敵な誰かが拵えた。
そんな物語があってもいいと

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雪見

「どこかに雪見しに行こうよ」
上京して出来た彼女から、こう言われて、僕ははたと気づく。
雪国育ちの僕からしてみれば、雪を「見にいくもの」と思っていなかった。そうか、雪とは、花見、や月見と同じで愛でる対象だったのだ。

どこがいいかな、と返事をしつつ、日常に溶け込んでいるものへの有難みを忘れてはいけない、と隣の彼女の手を強く握った。

雪見(ゆきみ)

水仙

水仙

水仙といえば、祖母の畑に無造作に植る姿が思い出される。新聞に包まれて近所に手渡される花。
私は昔から水仙があまり好きではなかった。韮のように真っ直ぐのっぺりとした葉、くわっと口を広げたような花弁。
可愛くない。子ども心にそう思っていた。

そのイメージが変わったのは、大学の授業でギリシャ神話と水仙の話を聞いた時だ。

自らの姿に恋焦がれ、水辺に映る自身を覗き込むように頭を垂れる。

「自己愛」

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風花

山の麓に小さく佇む歴史ある寺町に、僕は生まれた。吹き下ろしの強い風が吹く街で、それは地元で神風と呼ばれている。よくある田舎の保守的な人々に囲まれ、外の世界を知らない僕は、ずっとここで生きていくのだと何となく思っていた。

しかし君は都会に行くと言う。

気持ち良く晴れた冬のある日、君に誘われ二人で高台に出かける。眼下には、冬の樹々の合間に僕らの街がひっそりと広がっていた。

突然、ざあっと一際強い

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大寒

今朝は、大寒と呼ぶに相応しい程冷えきった、見事な冬晴れであった。凛と澄んだ空気が肌を刺す。道端には、未だそこそこの高さの雪が解け残っており、太陽の光を受けてきらきらと美しく輝いていた。

こんな日と言えば、とひょいと雪の上に乗ってみる。凍てついた雪は、少し沈めどもしっかりと身体を支えてくれた。そのまま歩を進めるとザッザッと小気味良い音が辺りに鳴り響く。
月の上を歩くのもこんな感触だろうか。晴れ渡る

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氷柱

先日より北陸は、近年稀に見る大雪であった。
日増しに氷柱は大きくなり、降り頻る雪はどんどん高さを増した。あまりに雪が続くものだから、どこまで積もるか見ものだなと、わざと放っておいた車上の積雪は、優に1mを越えようとしていた。
得意げに写真に納めてから数日が経ち、いざ雪をすかすと、見事にワイパーが折れていた。それも根本からぽっきりと。

好奇心と怠惰。財布に突き刺さる、痛い勉強代である。

氷柱(つ

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凍蝶

昨年は何処へも行けない年だった。私自身、人生の転機として計画していたことが、悉く潰れてしまった。停滞した空気のまま、冬を迎えてしまっている。
しかし、うろで越冬する凍蝶の如く、今年こそは羽ばたきたい。自らを蛹に喩えるには多少歳を取り過ぎてしまった。時間がない。今年こそは。

ふと、後ろを見遣る。自由だと思っていた背中の羽には、現在地のピンが刺さっているようで、ぞくりと寒気がした。

凍蝶(いてちょ

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寒鯉

生家には昔、池があった。池には鯉がいたそうだ。町屋の長屋のような家。しかし、私が生まれた頃に、庭を潰して建て増ししたものだから、池は形式として残ったものの、水の張られたのを見たことがなかった。
雪のちらつく寒空の中、一人傘を差して歩くと、公園の川底に鯉を見た。ほとんどが黒い、よくある公共の鯉たちの群れ。冬に備え丸々とした鯉たち。凍てつくような寒さの中、静かに宙を漂っている。それをじっと見つめながら

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