隆元殿の偽りなき愛を知る
「たいした事は起きていないが、この手紙を預ける男が其方に戻ると言うので手紙を書いた」
こんな律儀な一文より始まる手紙を書いたのは中国地方の雄、謀神として名高い毛利元就の嫡男、毛利隆元である。
当時をして、既に大大名としての地位を確立していた毛利家の跡取りではあるが、彼は正室の尾崎局を娶った後、側室は一人も置くことがなかった。比較的早い段階で嫡男の輝元を孕んだことも理由かも知れないが、戦乱の世において側室を持たないというのは、あくまで異例のことである。(因みに尾崎局の名前は、あややと言うらしいです。なんか可愛いですね)
上記の情報を以て、現代風に手紙の内容を考えてみると、以下のようになった。
「特に何も書くことないけど、ちょうどポストの近くまで来たから、君に手紙を送るわ」
微笑ましいですね。愛を感じますよね。
いつ命を落としても不思議ではない時代に、このような暖かい文章を書けるのは流石です。
ただ、彼の国経営の能力はあまり評価されてはおらず、父である元就からも、
「踊りの勉強ばかりせんと、もっと策を考えなあかん。策略が国を繁栄させ、芸はその逆や」
と、怒られています。可哀想ですな。
結局、家督を継いだ後も実権を渡されることはなく、死因もよく分からないままに、約四十歳の短い生を終えたのでした。
その後の尾崎局(あやや)がどうなったのかはよく分かりません。
昔の大河ドラマ『毛利元就』では、大塚寧々さんがあやや役を演じたそうで、そりゃあんな綺麗な奥さんなら、書くことなくても手紙出すよなぁと思いました。
でも、それに対する返事はどう出せば良いか。
「書くことないけど、手紙出すわ!」
という便りに、一番良い返事はなんだろう。
今の時代なら、スタンプで誤魔化すことも出来るよなぁ......などと考えていたら、陽が落ちていました。さらば、僕の土曜日。
微笑ましい夫婦よ、永遠に。