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ESG評価の実態

会計データなら業種も規模も異なる企業を同じ土俵で並べて評価できますが、果たしてESGについても評価できるのでしょうか。

例えば、同じ業種の2社があり財務状況では甲乙付け難く、温暖化対策でどちらか1社をESG投資商品の銘柄として選定するとしたら、以下のケースではどちらになるでしょうか。


〈A社〉
CO2排出量:10万トン/年

〈B社〉
CO2排出量:100万トン/年

年間のCO2排出量だけで比べるならおそらくA社ですね。
ではひとつ条件が増えるとどうでしょう。


〈A社〉
CO2排出量:10万トン/年
従業員数:1万人

〈B社〉
CO2排出量:100万トン/年
従業員数:20万人

CO2の絶対量ではA社の方が少ないのですが、従業員一人当たりのCO2排出量だと、

〈A社〉10トン/人・年
〈B社〉5トン/人・年

となります。
これはどちらを選ぶべきでしょうか。

さらに別の条件が加わります。


〈A社〉
年度:CO2排出量:売上高
2017年度:8万トン:10億円
2018年度:9万トン:9億円
2019年度:10万トン:8億円

〈B社〉
年度:CO2排出量:売上高
2017年度:120万トン:80億円
2018年度:110万トン:90億円
2019年度:100万トン:100億円

A社はCO2の絶対量は少ないのですが、売上高は下がり続けている一方、CO2排出量は増加傾向であり、環境効率が悪化しています
B社はCO2の絶対量は多いのですが、ビジネスが堅調なことに加えてCO2排出量は減少しており、環境効率が向上しています

私が機関投資家の立場であれば、②と③のケースでどちらかを銘柄として選ぶことはできません。神様に聞きたいくらいです。

さらに、ここでは同じ業種としましたがこれが別の業種(製造業と小売業など)だったり、立地地域や国によって同じエネルギー使用量でも電力会社のCO2排出係数が異なる場合など、現実にはますます複雑な判断が必要となります。

実はこれ、まだESG投資が普及する以前の2015年に、環境省が主催した非公式の有識者会議で私が質問した内容です。背景などをこちらにも書いています。


この時、日本を代表する機関投資家、大学教授、CSRコンサルタントの皆さんはどなたもお答えになりませんでした。唯一あった発言は、「まずは成長性でユニバースを選んでいるので、どちらも銘柄になり得る。四半期や半年など定期的に見直すので」という全く回答になっていないものでした。でも発言されただけこの方はまだ誠実です。他の方はダンマリでした。

これがESG評価の実態です。こんな曖昧な判断で資金調達に差がつくとしたら、対象となる企業はたまったもんじゃありません。
「ESG投資市場が急拡大」「ESG投資商品の方が通常の投資商品をアウトパフォームしている」なんて報道がかまびすしいのですが、実態は従来の投資商品と大して違わないのです。

あれから5年経って評価プロセスが確立されているのでしょうか。おそらく大幅な変化も進化もないと思います。なぜなら企業へ送られるアンケート項目が全く変わっていないからです。インプットが同じならアウトプットも同じはずです。

あえて進んだと思われる点を挙げれば、ビジネスによる環境貢献重視(例えば、水素社会の実現、再生可能エネルギーへの投資など)ですが、これも従来から行われている成長性の分析で当然評価されているはずなので、重心をずらしたくらいで軸足を移したとまでは言えず、わざわざESG投資と言い換えるほどの違いはありません。

多少のスクリーニング要素が加わるだけで従来の投資商品とほとんど実態は変わらないのに、膨大なESGアンケートに答えさせられたり、企業価値向上の名目でヒアリングや投資家説明会を繰り返したり、膨大な非財務情報の報告書をつくらされている企業側は本当に大変です。先の記事でも述べた通り、真水のESG投資市場など存在せず、従来の株式市場をESG投資の看板で上書きしているだけなので、当然ながら企業側にも真水の資金調達メリットはないのです。
このためにどれだけ日本企業全体の生産性が落とされていることか。CSR担当者や広報担当者に不毛な業務をさせず、本当に必要な業務に集中させてあげたいです。いつまでこんな実態のない喧騒を続けるのでしょうか。

最後までご覧いただきありがとうございました。


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