環境負荷との相関を見るなら名目GDP

厚生労働省が7日発表した毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、4月の1人あたり現金給与総額は28万3475円だった。物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比で1.2%減と、4カ月ぶりにマイナスとなった。原油をはじめとする物価上昇の影響が大きく出ている。

内閣府が18日発表した2022年1~3月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動を除く実質で前期比0.2%減、年率換算は1.0%減で、2四半期ぶりのマイナス成長となった。

昨今の原油高やインフレ傾向を受けて、実質賃金や実質GDPへの影響に関する記事が出始めました。
ところで以前、こんな指摘をしました。

エネルギー白書に掲載されているグラフの実質GDPを名目GDPに置き換えてみました。

実質GDP版では二本の折れ線グラフが綺麗にデカップリングしていますが、名目GDP版では2012年までは二本とも横ばい、2013年からデカップリングが始まっています。
(中略)
実質GDPを名目GDPに置き換えるとかなり印象が変わりました。私は1995年に就職したので1994年以降のグラフは自身の社会人生活とほぼ重なります。名目GDPのグラフなら実感に近いので違和感なく読めます。

よく名目GDPは物価変動込み、実質GDPは名目GDPから物価変動の影響を除いたもの、と言われます。日本ではこの30年間デフレだったために、名目GDPが横ばいでも物価(GDPデフレーター)で割った実質GDPは改善(経済成長)しているように見えてしまいます。仮に個人の年収や企業の利益が前年から1%下がった場合に「物価が2%下がっているから実質賃上げ、実質増益ですよ!」と言われて喜ぶ労働者や経営者がいるでしょうか。当たり前ですが、決算や業績を物価で割り戻して公表する企業はありません。

様々な統計資料や新聞記事で実質GDPが使われることには何の疑問も持たないのですが、環境政策の資料において、国内の経済活動が横ばいだったにもかかわらず成長していたようなグラフを用いて、さらに環境負荷が減っている、と示すのはミスリードにならないでしょうか。また、今後インフレが進んで名目GDPと実質GDPが逆転するとさらに実態からかけ離れてしまいます。

今後さらにインフレが進んだ場合、現実(名目GDP)では経済成長していても実質GDPはマイナス、という現象が起こるかもしれません。エネルギー使用量やCO2排出量、廃棄物量などの環境負荷は経済活動と密接な関係があるため、実質GDPはマイナスだがCO2排出量は増加、というとても扱いにくい指標になる可能性があります。

筆者は以前より、国別の比較などはともかく、国内で環境負荷と比較するのであれば名目GDPの方がよいと考えてきました。ただし、インフレになった途端に名目GDPに変更するのはご都合主義との批判を受ける可能性があります。今年版の環境白書やエネルギー白書はもう制作が進んでいるので難しいでしょうが(毎年6月5日の環境の日に発行されるのでもうすぐ出ます!)、来年度版など早めに変更した方がよいのではないでしょうか。

【追記】
本日午後に環境白書、循環型社会白書、生物多様性白書、エネルギー白書が出ました!
グラフは、、、当然ながら実質GDPのままでした。
後日、じっくり読みたいと思います。

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