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《国際環境経済研究所(IEEI)》海洋プラスチック対策において目的と手段の不一致が生まれた背景

国際環境経済研究所(IEEI)に掲載されました。

海洋プラスチック対策において目的と手段の不一致が生まれた背景

前回、海洋プラスチック対策として、レジ袋有料化などのプラスチック「使用量」削減が行われるのは目的と手段の不一致だ、と論じましたが、なぜこのような不一致が起きてしまったのか、その背景についてまとめました。

今回は事前にnoteに書いた文章ではなく、完全書き下ろしです。

すべて読むには8分ほどお時間をいただきそうなので、noteには概要(とIEEIには載せられなかった補足)を書いておきます。

サーマルリサイクルは悪、マテリアルリサイクルが善?

よく、日本の廃棄物対策を批判する欧米出羽守(でわのかみ)の皆さんが使うOECDのグラフがあります。

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日本はサーマルリサイクル率が高く、欧米先進国はマテリアルリサイクル率が高いので日本は遅れている、というものです。

ただし、このレポートをよく読むと「廃棄物全体の10%程度しかカバーしていない」「廃棄物の定義や集計方法が国や時期によってバラバラ」と断っており、とても比較できるものではないデータなのです。

また、同レポートでは「廃棄物の埋め立て処分率(上のグラフでは茶色のLandfill)の高い右側の国の方が問題だ」とも言っています。つまり、サーマルリサイクルやマテリアルリサイクルの是非ではなく、埋め立て処分こそが廃棄物対策の本質なのです。そして、日本は国土が狭く最終処分場がひっ迫しているのでサーマルリサイクルのための燃焼技術が向上した、という背景があります。OECDのレポートを使って日本の廃棄物対策を批判したいのだと思いますが、要は切り取りなのです。

プラスチック資源循環戦略の再活用を

2018年6月のG7サミットで「海洋プラスチック憲章」が採択されましたが日本と米国は署名しませんでした。一方、日本で2019年5月に策定された「プラスチック資源循環戦略」は海洋プラスチック憲章よりもリサイクル率などの数値目標が見劣りするものでした。一部の環境・SDGs関連の専門家の方々は、海洋プラスチック憲章に署名しなかったこととプラスチック資源循環戦略の目標値が低いことを批判しています。ただ日本のプラスチック資源循環戦略をよく読むと、よいことが書いてあります。

3R(リデュース・リユース・リサイクル)はあらゆる廃棄物対策で大前提となる概念のためプラスチック資源循環戦略でも最初に書かれていますが、これは廃棄物の削減(廃棄物処理に回される量の削減)にはつながるものの海洋への流出量削減には寄与しないので横に置いておきます。

続いて書かれている海洋プラスチック対策の柱では、サーマルリサイクルをきちんとリサイクルの一環として位置付けており、また国内対策としては犯罪行為であるポイ捨て・不法投棄の撲滅を挙げているのです。

少なくとも、このプラスチック資源循環戦略をまとめた各省庁の行政官たちは海洋プラスチック対策の本質を理解しているはずです。願わくば、繰り返し述べている通り国際交渉による海洋投棄の撲滅も加えてほしかったところです。

ただし、せっかくプラスチック資源循環戦略はよくまとまっているのに、この2年間の目玉施策がレジ袋有料化のみというのは何ともお粗末な展開です。政治の不作為と言えます。プラスチック資源循環戦略には海洋プラスチック対策の本質が書いてあるのに、施策としては3Rに寄与するレジ袋有料化だけなので、目的と手段の不一致が生まれたのではないでしょうか。

なお、プラスチック資源循環戦略の3R施策の数値目標がEUよりも低い!と批判している方々は海洋プラスチック問題の本質を理解していないと言わざるをえません。そしてこちらも戦略の全体像を評価せず一部分だけを切り取った批判のように思えます。

プラスチックごみ輸出制限の影響

これもSNS等で散見しますが「日本は中国など海外にプラスチックごみを輸出している。間接的に海洋投棄しているじゃないか」という批判があります。これはその通りです。
私は以前から廃棄物を輸出することに反対でした。2014年ごろに政府担当者と議論したことがありましたが、輸出についてあまり問題意識を持っているようには思えませんでした。
その後、2018年に中国がプラスチックごみの輸入を制限したため国内の廃棄物処分業者の皆さんが大変なご苦労をされています。政府にはもっと早く国内処理の準備を進めてほしかったのですが。

日本国内での川や海岸のごみ拾いはとても重要

河川や海岸の清掃・ごみ拾いはとても重要です。ごみ拾いの本来の目的は、その河川や海岸などその場所・その地域の景観ならびに生態系の保全であり、さらには地域住民のモラルアップにもつながる尊い活動です。

しかしながら、昨今は「海洋プラスチックの削減」を目的にうたっているごみ拾い活動を目にすることが増えました。大変申し上げにくいのですが、日本の河川や海岸のごみ拾いがウミガメやクジラを助けることにはほとんどつながりません。目的と手段を混同してはならないと思います。海洋プラスチック削減に効果的な対策は国際交渉や海外への廃棄物処理技術支援であって、日本国内にはほとんど見当たらないのが現状です。最も効果のある対策から一刻も早く取り組まなければ、海は汚染される一方だと思います

と、このような内容です。
詳細はぜひリンク先をご覧ください。

なお、前回はこちらです。



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