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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
135.オルクスのズタ袋

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 何とか気を取り直したラマシュトゥは、別に用意していた自分の『再生雨エピストロフ』をコユキに渡して使い方を説明した。

「この皮の中心にてのひらかざして、ほんの少しだけ魔力を照射して頂けますか? 刻まれた魔法が発動するのですわ」

 言われた通りに実行してみると、羊皮紙の表面から少し浮き上がった場所に、アニメなんかで見る様な、魔法陣っぽい物が描かれていった。
 直後に本堂中に降り注いだ慈愛の雨の中で、コユキは嬉しそうな声をあげた。

「おお、これは凄いわね、ラマシュトゥちゃん! これってやっぱり作るの難しいんでしょ?」

「いえいえ、私たちスプラタ・マンユなら、大抵の魔法なら魔力紋に刻めますわ、オルクス兄様だけは何故か思うようにいかない様なのですが……」

「ふ~ん、そうなんだね、刻める魔法は? 何でもイケるの? オルクスと善悪の『即時配達ウーバー○ーツ』なんか使えれば、このご時勢がっぽりよね? プライムセールとか?」

 嫌らしい笑みを浮かべて口にしたコユキだったが、続くラマシュトゥの言葉であっさりと起業の夢は断たれた。

「あそこまで複雑な術式になると、ちょっと難しいと思いますわ、単純に転移門の入り口と出口を指定する位なら話は違ってきますけれど……」

「なるほど、やっぱり、そうそう美味い話は無いって事か~…… ん、んん? もしかして!」

「どうかなさいまして? コユキ様」

「ごめん、チョット待ってて、すぐ戻るから!」

 そう言って、ドタドタ本堂を後にしたコユキは、台所に飛び込むと昼食の準備をしていた善悪に話し掛けた。

「善悪! あの不思議な消えちゃう袋って、まだ例の使い方してたっけ? それだったらちょっと貸してみて!!」

「ん? ああ、あれだったら今まで通り、重宝しているでござるよ」

 そう言って善悪は自分の横、シンクに置かれた三角コーナーにセットされたズタ袋を指差すのだった。
 すかさず、それを外して持って行こうとするコユキに、善悪は声を掛けた。

「どうしたでござる、そんなに慌てて? 今から下拵したごしらえの生ゴミ入れようと思っていたのでござるに」

 答えてコユキが言う。

「ラマシュトゥちゃんと話してて、ピンっと来たのよ! この袋の正体が分かるかも知れないのよ!」

「え、ピンが来たでござるか、そ、某も行くでござる! いや、皆も呼んで来るのでござるよ!」

 と言う訳で、数分後、本堂に全員集合して、謎の袋の調査が開始されたのであった。
 皆が見つめる中、小さな体を目一杯駆使して、袋をひっくり返したり、布を伸ばしたりしていたラマシュトゥがモラクスに話し掛けた。

「モラクス兄様、やはり転移門入り口の魔力紋だと思うのですけど、袋自体に魔力が編み込んであって常時発動していますわ、一旦魔力を相殺しなければ、魔法陣を浮き上がらせた途端に相手にこちらの座標や状況が知られてしまう可能性がありますわ…… どうにかならないかしら?」

「うむ…… そうだな…… パズスの盾を私が変形させて、魔力による結界で囲むとしよう、頼む、パズス」

「承知、では参ります『鉄盾アスピーダ』」

変形アラージ

 姿を現したパズスの光りの盾が、モラクスのアラージによって半球状に変えられ、本堂の中のメンバーを包み込むと、オルクスが魔力を袋に流し、浮き上がった陣の術式をラマシュトゥが素早く読み取っていった。

 時間を掛ける事無く、十数秒後にはオルクス、モラクス、パズスの順に魔力を止めるように伝えたラマシュトゥは、コユキと善悪に向き直って結果を伝えた。

「やはり単純な転移術式の入り口でしたわ、只、出口は座標では無く固定の場所が指定してありましたの…… その場所がちょっと……」

 言い淀むラマシュトゥにコユキが先を促すように声を掛けた。

「どこなの? ラマシュトゥちゃん! 教えて、そこに家族の、皆の魂がある筈なのよ!」

 コユキの心からの懇願を聞いたラマシュトゥは、表情を引き締めてから、答えを告げた。

「固定された出口は魔界、炎の王国ムスペルへイム、その地を治める領主たる公爵の居城、その名は『恥の城』」

「ボシェットの魔神城……」

 ラマシュトゥの説明にパズスが唸るように呟いたが、彼女は気にする事無く答えを続けた。

「その城の玉座に放置された特大の赤石、爆炎に君臨せし者、四十の軍団を率いし大魔王『魔神アスタロト』のむくろ、でございました」

 魔界、炎の王国、公爵、そして『恥の城』……
 更には、玉座、君臨、四十の軍団、……
 大魔王『魔神アスタロト』……

 本堂に集った面々は皆、かすかな緊張を漂わせながら、無言のまま過ごすかにみえた、その時、

「アレレ? デモ、ワレ…… アスタロ、ト、アッタ、コト…… ナインダケ、ドナ?」

 オルクスの呟きで、にわかに騒がしさを取り戻す、チーム『聖女と愉快な仲間たち』の声はおおむねこんな感じであった。

「え? なんで、ってか会った事無いって有り得ないでしょう? 兄様? 何故、あれらの手先に……」

「いやいやいや、長兄、これはしっかりと説明求む! 案件でしょうな! 我等の存在意義にも、ちっと抵触してしまう話なのでは無いか?」

 まとめるようにモラクスが口にした……

「兄者の記憶や、魔力が安定していない事の原因が、この事に関わりが無いとは、到底思えぬのでございます。 この上は、コユキ様の御家族を取り戻すミッションに加えて、我等の長兄、オルクスの、いや魔界の大公爵、オルクス卿の全てを取り戻す事も、我等が『聖女と愉快な仲間たち』の目標に加えて頂きたく存じます! 如何でしょうか? マラナ・タ?」

 良く分からなかったが、こんな時でも、悩む事無き我等が秘密兵器、コユキが無責任に堂々と答えた。

「オルクス君の事だったら、アタシ達(善悪含む)に任しときなさい!! 纏めまとめて何とかしてあげるからね!!」※根拠はありません……


拙作をお読みいただきありがとうございました!



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